自覚なき執着が、恐ろしい

蝉の鳴き声、川に飛び込む水音、郡上踊りの唄。遠く離れたはずの故郷が、けれど瞼を閉じるとやたらと近く生々しい。
「次は、いつ来るんや」
それは地元の旧友からの友情の誘い文句であるはずなのに。
一番、ぞっとしたのが、旧友の(あるいは主人公の)意図が見えないこと。執着があるのかないのか、だからこそ終着も見えない。だからこそ、主人公もきっと終着せずに、再び故郷を訪れる。
情景が立ち上がってくるような、長くはないけれど深みのある、最後まで読んでほしい作品です。