推理を推理ミスに「させられる」かわいそうでかわいい女性探偵
- ★★★ Excellent!!!
一般小説では人気があるけれどWEBだとあまり見ない探偵もの。散々掘り尽くされたジャンルだけに昨今はもう「事件が起きて探偵が出てきて解決してハイおしまい」というだけでは成立せず、何かしらのエッセンスを加える必要があります。
この作品の場合、そのエッセンスは「推理ミス」ということになるでしょう。
本作の探偵役、財田成香は推理ミスをします。もっとも、それだけならさほど珍しいものではありません。推理ミスがアイデンティティになっているへっぽこ迷探偵は割と存在して、最近では「推理しない」ことがアイデンティティの貴族探偵なるものまで登場しているそうです。しかしここからが本作の特徴的なところ。財田成香は別にへっぽこではありません。へっぽこではなく、しっかりミステリ的理屈の通った推理を展開するのに、結果的に推理ミスになる。つまり「推理ミスすることを神に運命づけられている探偵」なのです。
キチンと理屈の通った推理をドヤ顔披露し、それを考え過ぎやら後出し情報やらで全力否定される成香ちゃんはもうかわいそうとしか言いようがないのですが、そのかわいそうさから来るかわいさが本作の魅力でもあります。また推理ミスとはいえども理は通っているわけで、となると名探偵コナンの毛利のおっちゃんの推理のように「それはない」とゼロにして終わらせられるものではありません。「理の通った推理を否定するロジック」と「否定された推理を真相に繋げるロジック」の二つが必要になります。そこにどう論理を用意するかを期待するという、一風変わったミステリ的楽しみ方も可能です。
作者様の敬愛する涼宮ハルヒ成分が財田成香ちゃんの中に多分に入り込んでいることだけは個人的にツッコミ入れたくなりましたが、面白い試みの小説でした。続編出来そうな終わり方なので、シリーズ化を期待します。