第2話:G-17【銀座線・稲荷町駅】(2)
「
「いや、それ違うだろうが!」
光世に他のメンバーが突っこむ。
みんなの間に明るい笑い声が響く。
陽那も、一緒に笑った。
今、稲荷町駅に
なぜなら、占拠フラグのスイッチを見つけて、そこにチーム情報が刻まれたキーカードと呼ばれる物を読ませたからだ。
これが、小規模拠点の占拠の仕方だ。
占拠することで、この拠点は【
結果、稲荷町駅の出入り口にあった見えない壁はすべて撤去され、出入りも自由にできるようになっていた。
また、陣地内にいる
ちなみに中規模拠点以上だと、ゲーム的にいえばボス戦が必要となる。
その代わり、ボス戦をクリアしたチームは、その駅ナンバーを称号として得ることができるのだ。
【halo】は中規模拠点である銀座線・浅草駅を攻略しているため、【
そしてここまで、1人もチームメンバーが欠けていないことを陽那は誇りに思っていた。
(そうだ。誰1人として欠けていない……いないんだ!)
まるで自分に言い聞かせるように頭の中で唱えると、彼女は
妹は疲れたのか、隅の方で壁により掛かり座りこんでいた。
「お疲れ様。大丈夫か?」
「平気、平気!」
両腕をあげて力こぶしを作るようなポーズを取る。
しかし、そのか細い腕では大した力こぶしは作れやしない。
瑠那は姉である陽那よりも、華奢な体つきをしていた。
一緒に父から剣術を習い、訓練もしていたのだが、瑠那には少し無理があったのかもしれない。彼女は途中で、剣術から離れていった。
それでも今は
ただ、装備と言っても
たとえば、
弓も本体は
そのため、現実の武器と比べて軽くはなっていた。
「サブリーダーだからって無理するなよ」
「そういうお姉ちゃんこそ、平気? リーダーとしてがんばりすぎて、疲れてない?」
真ん中で左右にわけたショートボブの下で、心配そうに見上げてくる。
小さなピンクの唇をかるく結び、双眸が少し沈んでいた。
陽那は、そんな妹に微笑を見せる。
「当たり前だ。問題ないさ。それに前衛では、
「そうだよねー。あんなかわいらしい顔しているのに、光世ったらけっこうやるんだから」
光世が好きな瑠那は、まるで自分が褒められたように嬉しそうだ。
「まあな。でも、『こうせい』というより『みつよ』って感じだけどな、見た目は」
「あはは。『みっちゃん』だね!」
陽那は瑠那と一緒に笑いだす。
「ちょっと! 今、また僕のこと『みつよ』って呼びました!?」
それを聞きつけた光世が、ずんずんと陽那に歩みよってきた。
陽那よりも少し低い身長に、女装したら似合いそうな丸い輪郭の顔つき。
ぷくっと膨らました頬は餅を思わすように色白で、陽那の方が嫉妬しそうなぐらいだ。
「みっちゃん、すぐに怒るねー」
瑠那の言葉には目もくれず、光世は陽那をじっと睨んでいた。
「……なんだよ」
「い、いや……。僕は『みつよ』じゃないですよ!」
「なら、瑠那と同じように呼ぼうか?」
「……なんて呼んでいたんですか?」
「今、言っていただろう。『みっちゃん』だよ」
「それもダメです! 僕は『こうせい』で男なんですからね!」
むきになった彼に笑いながらも、陽那は本当に彼を女性的に見ているわけではなかった。
今はチェーンアーマーとでも言うべき鎖帷子の防具――【
きちんと体を鍛えているのだ。
たぶん、力だけならば、陽那よりも強いはずだろう。
彼はなよなよとした男ではなく、本当に頼りがいのあるメンバーだった。
「あ。そんなことより、今さっき依頼主の【帝都メトロ】から、仕事代1,200万円の振込連絡がありましたよ」
光世の言葉に、陽那は脳波コントロールで
すると、確かに1,200万円の仕事代が振り込まれていた。
命がけの代金としては安いのかもしれないが、高校生の稼ぎとしては法外だろう。
そう。陽那たちはまだ高校生だった。
本来ならば、こんな危険なことをするような年齢ではない。
しかし、この仕事は彼らのような若者が
「とりあえず、これでまた1人240万円は助かるなぁ」
「おい、光世。お前、また計算をまちがえて。6人で割ってなんで240万なんだ?」
「……あっ。す、すいません。まちがえたっす」
「ったく、頼むぞ。相変わらず、そんなに抜けてて大丈夫か。やっとあたしたち、初の大規模拠点である
「そっ……そっすね」
光世が視線を落とす。
そこまで苛立ったつもりはなかったが、陽那が思ったよりも落ちこんでしまった。別に本気で怒ったわけではない。
陽那は励ますように声色を明るくした。
「とにかくさ。わりーけど今日中に、他の4チームとのアライアンスの連絡は頼んだからな。今日は木曜日。明後日が本番だ。頼りにしているぞ、サブリーダー代理」
「……うすっ。了解です! さっそくしておきますよ!」
明るく応える光世。
それで陽那は、少し安心する。
光世の元気がないと、瑠那まで落ちこんでしまう。
光世が笑えば、瑠那も笑う。
大切な妹の瑠那にはいつも笑っていて欲しい。
「……瑠那?」
だが、気のせいだろうか。
彼女は、笑っていなかった。
なぜか、寂しそうな顔を無言で返すだけだったのだ。
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