東京迷宮冒険者 ═Tokyo Dungeon Explorers═ (上野駅編)

芳賀 概夢@コミカライズ連載中

第1話:G-17【銀座線・稲荷町駅】(1)


喚起アロウズ、【魔法剣マギアソード炎と氷コントラスト】!」


 陽那ひなの手にある柄の両端から、70センチほどの魔法の刃が現れる。

 片方は、灼熱をイメージさせる煌々としたあか

 片方は、氷山をイメージさせる凜烈としたあお

 それはとても、拡張現実ARの映像とは思えない存在感。

 ――いや。

 もはやそれは、拡張された現実・・・・・・・だった。


「モード・フランマ!」


 陽那の声に合わせて、蒼い刃が失せて赫い刃が残る。

 まるでそれは、某映画に出てきたようなビームブレイド。

 先ほどの形よりも、取り回しやすくなり、陽那はかるくふってみる。

 ブオンという呻るような音に、まとわりつく炎がわずかに跳ねた。


「よし。前衛、走るよ! 瑠那るなたち後衛は、援護しっかり頼むぞ!」


 彼女は、それを右脇に構えて走りだす。

 長いポニーテールをたなびかす。

 足下には、邪魔な線路が走る。

 その横には、腐った臭いの水が流れる。

 真っ暗な視界。

 だが、彼女がつけているゴーグル型のARETINAアレティナと呼ばれるディスプレイにはすべて映っている。

 レンズに映しだされるワイヤレスネットワークの電波強度、座標情報等のステータス。

 そして網膜照射で映しだされる昼間のように明るい風景と、巨大なネズミのクリーチャー。



――Warning:ARC名【スカンティナート・トーポ】 レベル12

――【ARC Type-A】



 そして脳内に直接送られてくる・・・・・・・・・・・情報。


(本当に銀座線のARCアークは、動物型Type-Aばかりね……)


 送られてくる情報は、文字だけではない。

 体毛がまったくなく、血が滴りそうな赤肌を見せる、人の背丈ほどもあるネズミ。そのこれからの動き・・・・・・・までが、脳へ直感のように伝わってくる。


「来るよ!」


 まさに予想通りに、こちらに向かって走ってくる。

 ARCアーク――ARで描かれたクリーチャー。

 しかし、それもまた現実。


 殺意さえ含む、ネズミの艶やかな黒い瞳。


 その殺意を捌く陽那。

 動きは読めている。


 右に開くように捌く体。

 そして、走る灼熱の刃。


 赤肌が燃えあがる。

 甲高い鳴き声に耳が痛い。


(1匹目!)


 チームのリーダーとして先陣の切り方は文句なし。

 さらに横から、チーム前衛として第2位の光世こうせいが片手斧を別のネズミに振るった。

 かわいらしい顔をしながらも、その攻撃は豪快だ。

 ネズミの首当たりから、すっぱりと斬られている。

 もう1人の前衛も、魔法剣マギアソードで1匹仕留めた。


「散開!」


 先頭集団を叩き、その後に続く大量のネズミARCアークが怯んだところに、後衛から弓の一斉射撃。

 そして、たたみかけるように、焼き尽くす炎の壁が魔法で生まれる。

 巻きこまれないように端に寄りながら、陽那は改めてその風景に圧倒される。

 何度見ても、ARとは思えない。

 でも。

 何度見ても、現実とは思えない。

 【AROUSEアロウズ】と呼ばれるARを使った対戦ゲームが、現実になってしまった世界。

 それは、冗談のような本当の話。


「陽那さーん、ネズミ全滅っす!」


 光世の報告は、ARETINAアレティナに表示されるメッセージからもわかる。



――Congratulation!!

――Get:240point!



 ポイントはレベルと同等に入る。つまり、20匹いたらしい。それを確認すると、陽那は後ろをふりむく。

 彼女の瞳に映ったのは、走りよってくる妹の瑠那を含めて3人の頼もしいチームメイトの後衛たち。

 そして、前衛3人もあわせてチームメンバーはすべて無事だ。

 銀座線・田原町G-18から、650メートルほど進攻した。

 もう100メートルほど先には、銀座線・稲荷町駅G-17のホームが見える。

 無人の筈だが、天井のLEDライトが明々と灯り、その様子を明らかにしていた。

 その周りには、狼か犬のようなARCアークがうろうろとしている。

 あそこにいるARCアークを倒し、改札の中から1つだけある占拠フラグを探しだし、キーカードを当ててロックを解除しなくてはならない。


「みんな、油断すんなよ! 銀座線・稲荷町駅G-17を攻め落とすよ!」


 後ろから「おー!」という声が上がる。

 陽那たちは次から次へと湧くARCアークを斃し歩みを進めていったのだ。

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