第12話:G-16【銀座線・上野駅】ボス戦(2)
〈そんなことしたら、MP尽きますよ! おれたちに死ねっていうんですか!?〉
他チームの
その意見は、もっともだった。
しかし、陽那は引かなかった。
「絶対にあたしがトドメを刺す! 信じてくれ!」
その言葉のどこにも、保証などなかった。
しかし、保証以上の自信が、陽那の声にはこもっている。
それに全員、陽那がどれだけ瑠那を助けたいかわかっていた。
瑠那を思うあまりの彼女の奇行、みんな事情を知って見守っていたのだ。
今は、弓使いと
先ほど、氷属性の攻撃で口をつぶせたのがでかかったのだろう。おかげでタマゴを吐きださなくなっていた。
今のところ無理せず、下手に
だからと言って、ゆっくりしていられるわけではない。早くしなければ、さすがに相手をしている部隊の限界も近い。
「頼む!」
全霊をこめた願い。
もう陽那のその勢いに逆らえる者はいなかった。
全員が「了解」の言葉と共に配置につく。
「光世、お前の役目もかなり危険だけど……」
「わかってますって。でも、逃げずに戦うって決めてますから!」
光世の言葉を聞くと、陽那は一度深くうなずいた。そして、持ってきていた
それは、大事な妹が愛用しているのと同型の
「
上腕の外側に現れるボウガン。
さらに彼女は、もうひとつの
そちらはまるで、銃身のない拳銃のような形をしていた。
〈
「OK! じゃあ、前衛部隊は少しずつ私とスイッチ! タゲは私が取るわ!」
陽那は氷山を思わす刃の
そして、走った。
まさに疾風。
風を斬るように味方の前衛に近づく。
そして、その前衛を襲う足を横から切り払う。
斬り口が凍り、あがる呻き。
無視してさらに斬りかかる陽那。
表情などとても読めない蛸の顔。
だが、そこには確実に怒りを感じる。
突如、踵を返す陽那。
それを追う蛸。
彼女はそのまま円井デパートの入り口に。
それはかつて、瑠那が使ったのと同じ手段。
瑠那は、そこで止まって時間稼ぎしようとした。
だが、陽那は違う。
さらに奥に入りこむ。
前は地下2階まで吹き抜けた蛸の住処。
なくなる地下1階の床。
そこを彼女は、大きくジャンプ。
「アンカー・スレッド!」
左腕につけたボウガンから、放たれる一本の矢。
矢には、細い糸がつながれている。
それが天井に繋がる。
振り子の軌道を描く陽那。
それを捉えようと、残っていた手を伸ばす蛸。
床がないことなど気にしない。
そこは自分の寝床。
下に水があることだって知っている。
もう少し、あと少し。
陽那に伸びる蛸の手。
――だが、届かない!
そして、自分の巣に落ちる蛸。
支えていたが、貝殻が重かったのか、ひっくり返るように落下する。
もしかしたら、蛸もそこで気がついたのかもしれない。
だが、もう遅い。
落下後、激しい衝撃音が地下空間に響き渡る。
水はなかった。
すべて魔法により凍らされていた。
ひっくり返るように蠢く蛸。
だが、落下ダメージと氷の床のためか上手く動けない。
「――でぇいやー!」
蛸の後を追うように、光世が飛んだ。
狙うは、蛸の貝殻。
だが、少し遠すぎる。
あらかじめボウガンモードにしておいた【
両脚をまるで乗るように
「――インパクト・ショット!」
空中で衝撃波を放つ。
体が後ろ向きのまま、貝殻に近づく。
「モード・アックス!」
【
イオターである光世は、殻を正確に観察する。
落下しながら、振りあげる
「――そこだっ!」
殻にできていた亀裂を見つけ、そこに繋がりそうなところに刃を向ける。
そして当たる瞬間。
「――インパクト・ライト!」
蒸気と共に、スライドする刃。
殻に強力なダメージを与える。
割れない。
蛸の胃がらの上に着地。
もう一発――
そこに足が襲いかかる。
飛び避ける。
そして空中で斧を構える。
まるで片刃の斧のようになった【
光世は、その
「――インパクト・レフト!」
刃がスライドして飛び出る。
激しく殻を叩く。
まだ割れない。
(あと、一撃!)
だが、その瞬間に蛸が蠢く。
「――うわあっ!」
振り落とされる光世。
(まだ……あと一発!)
「モード・ボウガン!」
放たれる衝撃波が、殻を揺らす。
刹那、ピキッという悲鳴をあげて殻が割れる。
「――陽那さん!」
光世が呼ぶまでもなかった。
ぶら下がっていた天井から、彼女は落下してくる。
それを打ちはらおうとする蛸。
だが、その威力はすでに弱々しい。
彼女は迫ってきた足を蹴り飛ばし、それで逆に軌道を修正する。
むき出しの蛸の頭に向かって落下していく陽那。
逃げようとする蛸。
「逃がすか!」
ボウガンから飛び出るアンカー。
蛸の頭に刺さると、彼女の体がまた軌道を変える。
蛸の足が、アンカーの糸を狙う。
糸を切りはなし、彼女は空中で構える。
それは銃の形をした
ただし、バレルの代わりに、柄の形をした
柄の銃口――刃の出口――が、蛸に向けられる。
「――ブレイド・ブレイク・ブレット!」
引き金を引く陽那。
弾丸の代わりに飛びだしたのは、氷山のごとき蒼い刃。
それが射出され、そのまま蛸の頭に突き刺さる。
一度使うと、武器破壊状態となり30分は【
その分、威力は凄まじい。
刃が脳天に刺さると、そこから一気に凍結が始まる。
すべて固まるのに2秒かからなかった。
いつの間にかまたアンカーを打ちだして、軽やかに着地する陽那。
彼女はそのまま光世を見た。
「…………」
彼女と違い、着地に失敗して氷の上でしたたか体を打っていた光世は、座ったまま首肯で応じる。
「……インパクト・ショット」
最後は静かに、感慨をこめた音声入力。
【
――Congratulation!!
何度目かの降りそそぐ氷の破片。
しかし、これが最後のダイヤモンドダスト。
彼らは、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます