第9話 邪魔なんですよ

 エルセン、クリーティー、ポールソン、ジェフリとわたしは油臭いブルーのつなぎに安全靴、ヘルメットを身に付け岸壁に出た。Salvoの作業員と日華らの現場監督たちが既に作業を進めている。


 わたしは割り当てのフォークリフトを使い、そのまま保冷倉庫の中に乗り入れる。


「おいおい、何してんだ」


 日華の原田はらだだ。一旦リフトを止める。


「悪いけど、作業させて貰います」


「井咲、諦めろ。情報に乗り遅れたお前が悪い」


田辺タナベさんは帰国したんですか」


「何?」


「足刺されたぐらいで」


「何だと!どれだけあいつがショック受けたか知ってんのか。日本の家族もどれだけ心配してるか」


「ショック?」


 わたしは軽い失望の表情で続ける。


「ジョージは死にましたよ。田辺さんは、”ショック”、ですか」


「言っていいことと悪いことがあるぞ!」


「やっていいことと悪いこともありますよ。喪に服しもせずにこんなこすいことして」


 わたしはフォークリフトを再び動かし、日華の保管エリアの青果をパレットごと押しやる。


「おい!何すんだ!」


「邪魔なんですよ、そちらの商品」


「やめろ!客からクレーム入れられるだろうが!」


「原田さんの客なんて知りませんよ」


 Transの監督が、ほっとけ、という感じで原田をすかしてあっちに連れて行った。


「クリーティー、もう1台フォーク出して」


「え?俺?」


「早く」


 わたしがタバコでかすれた声を出すと彼はびくっ、としてフォークリフトに駆け出した。


 全員、不機嫌な顔で腹立ちをエネルギーに作業を進める。

 手抜きし、しょっちゅう休憩するSalvoよりも1時間近く早く作業を終えた。顧客にインボイスを渡しに行く。


「何かもめてたみたいだな。でもまあ、やることやってくれたんで助かったよ」


「またお願いします」


 わたしとクリーティーは作業中の原田たちのど真ん中にフォークリフトを停めた。


「ふざけんな!」


「ここ、定位置ですよ」


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