第11話 5-2=3発

 朝、事務所へ行くとわたしが一番乗りだった。

 

 30秒ほどして1人入って来た。


 事務所の誰かではなかった。


「イサキさん、おはようございます」


「ああ。ラッセルさん、おはようございます」


 言葉は丁寧だが一瞬にしてわたしの緊張感が高まった。

 同じ業界・同じ穴のむじなの仕事をする者同士、互いの事務所に出入りすることはごく当たり前にある。でも、わたしはいやだ。


「イサキさん、これ、あげますよ」


 ツヤの無い黒い鉄の塊。この間、ノーランのボディガードが見せていたリボルバーに似ている。今、ラッセルの手に握られてる。


「S&Wの22口径リボルバーです」


「なんで」


 わたしの質問に彼はにやっ、と笑う。


「護身用ですよ。自分の身は自分で守らないと」


「違法ですよね」


 正規に銃を所持することは可能だ。でも、今彼から貰うこの行為は違法だ。


「それはあなた次第です。イサキさん。あなた、敵多いですよね」


 彼は銃を握った右手を前に突き出す。わたしはほぼ無意識で自動的にそれを握手するように右手で受け取った。


「すみませんが弾は3発しか入ってません。2発は使ってしまったので」


 つまり、撃った、ってことだ。


「何かお礼を」


「いりません。いつもごちそうになったり世話になってますから」


 本当は、もっと深く「なんで」と訊きたかった。

 

 けれどもうつろな気持ちのまま、わたしは銃を手に入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る