異図

「珍しいですね」

 黒い法衣を着た御坊は、そう、その空間の中で唯一光の当たっていないに声をかけた。

 のそり。は体を少し揺する。


 暗い。とても暗い空間だ。

 その中でただ一つ、空間を照らす光がある。ふんわりと場を照らし、漂う行灯。どこまでも優しく暖かな美しい行灯だった。その行灯は周りの暗闇からを守るように、を照らしている。


 御坊はに笑いかけた。


 は、あいも変わらずむすりとしていた。





如何どうしたんですか? あなたが同類を頼るだなんて」


 見通せないものでも出来ましたか。

 御坊は笑う。笑う。笑う。


「厄介な人間がる故––––––」


 はぴくりとも体を動かさず、そう、口だけで呟いた。


「厄介?」

左様そうよな」

「それは何故?」


 可愛らしいじゃないですか––––––。

 御坊は笑う。笑う。笑う。


「又、おれに会うやもしれぬ故」

「はて、それは厄介な事象なのですか?」

「甚だ厄介よ」

しかしながら久太利。其れはなんとも味らしく愛おしいものでは?」

「貴様の感性はよくわからぬ」


 のそ、のそ。

 は体を揺すった。


「どうせなら覗けば良いのでは?」

「好まぬ故」


 のそ、のそ。


「知らぬが良い事象も有る」


 己故、言える事よ。

 は、そう呟いた。


「理由は、聞かせてくれますよね?」


 は、と。は、嘲笑った。


が己に寄れば––––––シガラミが如何なるか」


 容易よの。

 そんなの呟きに、御坊の顔から笑みが消えた。


「其れは厄介、ですね」

「漸く気付きおったか」


 忌々しい光よ。

 行灯を一瞥するように体をもたげて、は呟いた。

 にくるりと背を向け、御坊は歩き出した。


「己が何故此処にて燻っておるのか、努努忘るるな」


 その言葉を、背中に聞いて。




「縁を切るほどではない、でしょうから」


 ぽわ、ほわ、ぽわ。


「呪を強くしておいてください」


 ぽわ?


「よろしく頼みますよ」


 ほわ。


 御坊はその×の名前を呼んだ。




「––––––佐奈さん」


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