意図

 切ってしまいたい縁がある。

 それは切っても切れない強固なもので、私はそれを「×」と呼ぶ事にした。

 名前をつけて仕舞えばとても悲しくなった。とても遣る瀬無くなった。それでもこうする他ないのだと自分に言い聞かせ、私はを実行に移す事にした。

断鋏たちばさみさん断鋏さん。どうぞお越し下さい」

 断鋏さん断鋏さん、どうぞ此方に。

 私の縁を、お切り下さい。


 その世界はとても美しかった。

 点が結び合って線が生まれ、色とりどりの布を織り成す。優しく美しく、儚くも力強い世界だ。

「これが縁の姿ですよ」

 ああそうなんだな。

 私は手を伸ばす。

 何も掴めない。

 でも、それは綺麗だった。目も眩むほど。

 愛しい。愛しいね。

 その中の、今にも切れそうなか弱い蜘蛛の糸ほどの太さの糸に、彼は鋏をあてがった。

「いいんですよ」

 私はそう言った。

 彼の闇を食らったような瞳に私が映っている。

 彼は微笑した。


 ぷつん


 断末魔の叫びすら上げることができない。

 そんなか弱い蜘蛛の糸が、途切れた。




「真紀?」

「え?」

 あたしは首をかしげる。目の前にいる佐奈に、「なに?」と首をひねる。

「今、どこ見てたんよ?」

「ぼーっとしてただけだよお。なんで?」

「だってぇ、さっき凄く大切な話してたでしょ?」

「大切な話?」

 あたしはやっぱり首をかしげる。

「………そんな話、してたっけ?」

「してたような?してないような?あたしもわすれちゃったぁ」

「なにそれえ、意味ないじゃん」

 そう言った時、あたしの足元に黒い何かが見えた。

「きゃっ、なにこれ!」

 佐奈の叫び声に驚いてあたしは足元を見た。何てことないじゃん、と笑い、佐奈の方をもう一度向いて言う。

「何てことないよ。ただのクモじゃん」

「毒あるんじゃないの?!見たことない紫の縞模様ついてるし!」

「だーいじょぶでしょ。こんな都会にいる毒グモなんてセアカくらいしかいないし」

 そしてまた床を見る。

「………あれ?」

 少し見ない間に、クモはどこかへ行ってしまっていた。



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