属国の失敗

「司令部隣接の飛行場にMGモビルギア出現!!航空師団われわれの機や施設をを片っ端から攻撃しています!!おそらく、敵機かと……!!」

「確実に敵だろ!?督戦隊は今いないんだぞ!!」

 参謀の声に、ガガーリンはつい声を荒げて応えてしまう。

――既に滅茶苦茶めちゃくちゃにされているのに、こいつは何を間抜けなことを言ってるんだ……!!

 ちなみに、督戦隊とは味方の敵前逃亡や降伏を防ぐために、場合によってはその味方を攻撃してしまう“恐ろしい”部隊のことである。

 とはいえ、流石に同志大統領スターリンの息子であるヴァシーリーに銃口を向けるのははばかれるのか、彼が率いる航空師団の付近にはその“恐ろしい”部隊は配置されていなかった。

 しかし、このことが裏目に出てしまう。

――いれば、確実に撃退できたものを……。

 ガガーリンは初めて――彼らがいないことを残念に思った。

 督戦隊にも、少数とはいえMGモビルギアが配置されている。MG《モビルギア》にはMG《モビルギア》で対抗するのがベター。それらを使えば、今のように好き勝手されることは絶対になかっただろうに……。

 まぁ、どちらにしても裏目には出るんだけどね!!

 話を戻して――今も更なる衝撃が、混乱の渦中にある司令部を襲っているところ。

「おわああぁぁっ!?」

 余りの衝撃に、ヴァシーリーは情けない悲鳴を上げてしまう。師団長としては、相応しくない行為。

 直後――司令部の電子機器からは小火ぼやが出たり、小爆発を起こすものが出始めている。どれも天井の物質の落下を受けたり、倒れる柱や棚に直撃されたことによるものが多い。これらの光景に、彼は目を覆いたい感情にとらわれながらも、じっと自身の目に焼き付けていくだけ。特に意味など成さないのに……。

 ぼーっと突っ立ているだけのヴァシーリーを尻目に、「うわああぁぁぁ!!」というその他大勢の混じりあった悲鳴と激しい揺れに包まれる司令部。これらに加えて、体にみる嫌な爆音も混じっているのだから――たまったものではない。

 どうやら弾が飛んで来てしまったようだ……。

 その最中――「狼狽うろえるな!!」とガガーリンだけが気丈に振る舞っている。

 しかし、ボンッ!!という直近の爆発を受けてしまう。その規模が人を傷つけない小さいものだとはいえ、「――うっ……!!」と彼を怯ませるには十分。プライドも存分に傷つけられたことだろう……。

 ヴァシーリーらの災難は、まだまだ続いていくことになる……。


 オーキデ共和国 合同解放軍ソ連軍オーキデ派遣航空師団司令部 副司令官専用MGモビルギア“ディクセン”

 一方、いつの間にか敵の航空師団司令部を強襲しているハンとディクセン。

 今回はディクセン相棒である“アルマライト”を自機の腰部に納めて、彼のもう一つの相棒である実弾使用式試作突撃銃アサルトライフル「アフコファ(Avkova)」で滅茶苦茶にしている最中である。

 カメラに映っている機やら施設やらに、片っ端から実弾を叩きこんでいく。

 叩きこまれた物体は、皆爆発して炎上するだけ!!特に酷いものは、味方からの爆発を受けて、自身に誘爆してしまう……。

 それらの爆炎を背景にして、今のディクセンは敵から見て“怪獣”か“悪魔”そのものにしか見えてくれない。もし、機の高さが今の倍以上なら――確実に“怪獣王”の域に届くことだろう……!!

「よろしいのですか、マイスター(Meister)!?“アルマリヒト”を使わずに……」

 さらにその機内では、ディクセンがハンに尋ねている最中でもある。

「あれは、威力が高すぎる!!かすっただけでも、敵の司令部を破壊してしまう!!そしたら、ヴァシーリーが死ぬだろ!!」

 ハンはそう言いながらも、当の司令部には数発の弾を叩きこんでいる。死なない程度に計算しているのなら――結構、えげつない!!

 しかし、敵の司令官を生かすことについて――ディクセンは理解できない。

 通常は頭(敵の司令官)を潰して、敵の部隊に混乱を与える――これが彼に刻み込まれている戦場の常識である。

「司令官のヴァシーリーは殺さないのですか……?」

敵は生かすに限るよ!!しかも、敵の味方でも直接は殺せないんだ!!だったら、なるべく生かして、そのことを活かすほうがいいだろ!?それに……」

「『それに……』とは!?」

「あいつの親父――スターリンは息子を殺されても平気な奴だしな!!かえって生かしておいて不快にさせるのは爽快だろ!?」

 少なくとも、“ヴァシーリー”に限っては間違ってもいないかも……。

 ディクセンがかかえるの疑問を解決されたと同時に、新たな疑問に更新されてしまう……。

「マイスターの言い分はほぼ正しいとして……何故、ヴァシーリーが無能と分かるのですか?ひょっとして、既に調査の方をお済ませに……?」

「いや……あいつはろくに調べてないな……。何だろう……何故か、あいつの記憶が最初からあるというか……」

 ハンはディクセンが抱える新たな疑問を解決に導けないことに、頭を掻いて赤面してしまう。とはいえ攻撃の手は緩めていない。

 実は、ディクセンが抱える新たな疑問は解決されている。だが彼は今はそのことを表さない。表せば、ハンを混乱させることが確実なためだ。

 今が戦闘中だけに、それは不味まずい。

 だからと言って、立場上は『マイスター』であるハンを欺くわけにはいかないディクセンは「ところで、マイスター!!いつ敵の司令部ここを離れますか!?」と話をらすことにする。

「もう少し遊んでからでいいだろ!!」

 ハンは、可愛らしい笑みを浮かべる。一見しただけでは美女、見る人によっては小悪魔的な美少女にも見えなくはない――かな……。

 それにしても、前方からのハンからの“遊び”と、後方からのアレクサンドロフスキーからの“贔屓ひいき”にもてあそばれるヴァシーリー。

 そんな彼の前途は多難ばかり……。


 オーキデ王国 オーキデ派遣機甲軍団 移動指揮車

「同志政治委員!!爆撃隊とその護衛隊の両隊が“殲滅”された模様です!!」

「何っ!?」

 自身の副官のホチネンコから、空爆作戦失敗の報告を受け、若干驚くグルカロフ。しかも、はたから見ても、そのことを全くうかがうことができない程だ。

「戦略部隊から全軍に発信された暗号通信では、『爆撃隊とその護衛隊の両隊からの定時報告が時間を大幅に過ぎても、入って来ず!!よって両隊とも“殲滅”されたと判断す!!同時に爆撃隊隊長のシチェルバコフ以下全員を“戦士”と判断す!!』という内容です!!

 間違いないかと……!!」

 現在、機甲軍団は秘匿行動中のために、味方の情報を受け取ることができるものの、その味方に返信することは叶わない。

 返信して敵に傍受でもされたら、『秘匿行動』の意味が無くなってしまう。

 よって、『その情報はまことか!?』という返信もできない。だが、ホチネンコからの報告は、その懸念けねん払拭ふっしょくさせた。

「そうか……」

「驚かれないのですか!?」

 グルカロフの不動に等しい反応から、ホチネンコは意外の念に打たれてしまう。

「別に驚いていないわけではないが……このような事実になった以上驚いても仕方あるまい!!それに、これも想定の範囲内だ。作戦は続行するぞ!!」

了解ダー……!!」

「しかし……『殲滅』されたとはな……!」

 自身で言いながらも、未だにその事実を信じ切れていないグルカロフ……。想定内とは言え、その最悪をこうもあっさりと極められてしまったのだから、無理もない。

 ――英雄称号を賜った奴(シチェルバコフ)が……こうもあっさり死ぬのか……!?と思いながらも、戦場の残酷を知り尽くしている彼は、「ところで、両隊はどいつらにやられたんだ!?」と話題を変えることにする。

「それが……不明のようでして……」

「何……!?『不明』だと……!?」

 この時――焦燥感というものがグルカロフに芽生える。

「先の内容には『妨害電波の影響で、爆撃隊とその護衛隊からも通信を全く傍受できず!!』ということも含まれています!!また、彼らが最後の通信を発することさえ叶わなかった可能性もあります……」

 ホチネンコからの報告を聴いて、グルカロフは「そうか……!!」とうなずく。一見すると素直に見受けられるが、彼に芽生えた焦燥感は増していくばかり……。

 ――虎の子の爆撃隊を犠牲にしても、敵の正体さえ掴めんとは……。一体、何者であることやら……。

 多大な犠牲を払っても、敵の正体を掴むことができない……。正体が分からない敵は最も恐ろしいものの一つ。グルカロフの焦燥感が増していくことは、無理もない。

 そんな時に――ホチネンコが新しい暗号通信を傍受したことに気付く。

「同志政治委員!!新たな暗号通信を傍受しました!!」

「今度は何だ……!?」

「ソ連の航空師団司令部が敵の襲撃を受けているようです!!同師団隷下の一個航空連隊からの情報によりますと、司令部がる方角から煙と炎が上がっているようです!!

 また、いまだに司令部及びそこに駐留している二個航空連隊からの通信は途絶えています!!」

「い、いつの間に……!!」

 ホチネンコの報告に対して第一声で応えたのは、両者の傍に控えていたベヴジュクである。しかも、悲鳴に近いものでる。

 その直後に、彼の顔が急速に青ざめていく……。

――も、もし……同志航空師団長(ヴァシーリー)の身に何かあったら……。

 今――彼の脳内には、同志アレクサンドロフスキー元帥から「何をしておった、この害獣共!!盾にさえなれんとは!!」と責められている合同解放軍所属のソ連軍将官達の情けない姿がシミュレートされている。もちろん、彼自身も将官達の一人に含まれている。

 そこから、全員が無慈悲に粛清ころされる……。

 今のベヴジュクの表情は――既に粛清ころされていると言っても過言ではない程、恐怖に引きつられている。

 そんな彼とは反対に、鼻で「ふっ……!!」と笑うグルカロフ。

――あのお坊ちゃんが、やっとしくじってくれたか……!!

 属国の失敗は――意外とたのしい……!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る