ディクセン
他の全ての怪鳥たちも、「隊長機が墜ちていった……!!」という事態を認識を得た直後に、その機と同じように墜ちていった。また一機とまた一機と、ほぼ間がないまま順に黒い光に貫かれて……。
そして、黒い光の初弾から二十秒を経ないうちに、全ての怪鳥が爆弾やミサイルを抱えたまま――墜ちていったのであった。
現時点を以て、爆撃隊による首都襲撃作戦は――“失敗”に終わった……!!
オーキデ王国 首都近郊上空 副司令官専用
「首都に通信文を送ってくれ!! 『王城に
ハンは自身の搭乗機であるディクセン(Dikßen)に頼む。
すると、機内には――
「ヤー、マイスター(Ja, Meister)!!」という機械的ながらも、何処か元気が良い返事が響いてくるではないか!!
ディクセン(Dikßen)――機体と同名のAI(人工知能)を搭載している、大霊国が開発した最新鋭の機体である――とされているが、まだ詳細の全てが不明な人型の機体。搭乗者であるハンも、その機について知らないことが山ほどあるが、戦闘を行う上で影響が出る程でもないので、気にしていない。
確実な情報について分かっていることは――機体名と搭載AI名が共に『ディクセン』と同じ名前になっているということ。
初見の方から見れば、ややこしいことになっている。『ディクセン』と呼べば、機体とAIのどちらを指すのか?その答えは――両方である。
何故なら、その機体は搭載AIによる自動操縦も可能なので、機体とAIは完全に一体化して運用されている。
つまり、『ディクセン』とは独自の意志を持った機体でもあるのだ。
「送ったら、ヴェンの
「ヤー(Ja)!!どちらも平文(暗号化されていない通信文)で!?」
訊き返してきたディクセンに、ハンは「――構わない!!むしろ、そうでないと困る!!」と答える。前者はどうせ敵に把握されてしまうだろうし、後者は把握してくれないと困るためである。別に、してくれない場合でも、構わないのだが……。
ハンは、ディクセンの「ヤー(Ja)!!」という応答を聞くと――
「良し!!このまま戦闘空域を迂回して、敵の航空師団司令部をどやしつける!!」と、そのまま目的地まで、単機で飛んでいった。「ちょっと、脅かしてやるか!!」という軽い
ディクセン――ハンの個人の専用機で、機体の頭頂高は二十メートルで、六枚羽を有している人型翼人系のMG《モビルギア》である。
主要武装として、狙撃や近距離と幅広く対応できる万能
大霊国では功績多大で有能な個人に対し、専用機を贈られることがある。無論、書類上では国家の所有物となっているが、本人の戦死並びに退役や有罪判決を受けない限り、その本人の了承なしに取り上げられることはまずない(もちろん、例外はある)。また、軍艦なども個人へと贈られることもある。
ちなみに、ハンの
オーキデ共和国 合同解放軍ソ連軍オーキデ派遣航空師団司令部
「――だいたい俺に、師団長なんて向いてないんだよーっ……!!」
戦況に嘆くヴァシーリー。実は本航空戦の前の戦闘で、ヴェン率いる航空師団の手痛い反撃に遭って、五十二機を損失している。
そして今既に航空師団千六百機の内、およそ百八十機に被害が及んでいる……。それを代償として、こちらと同規模の敵に与えた損害は、良く見積もっても八十機。ド素人が見ても、「釣り合わない」の一言が真っ先に思い浮かぶだろう……。
――ヤバい、ヤバい、ヤバい……!!絶対に
高級指揮官に向いていないことを自他ともに認めているのに、何故か師団長に補せられているヴァシーリー。何故か可愛がられている。
その理由はただ一つ――同志スターリンの息子であるからだ。
他はいいとして、一番まずい奴に可愛がられてしまったのかもしれない。アレクサンドロフスキー元帥に……。
――独裁者の息子に生まれたのはいいけれど……。まさか、
ちなみに独裁者にして父親のスターリンの方は、彼のことを可愛がるどころか気にさえも留めていなかった。最悪の場合、彼は実の息子に対し、嫌悪さえ覚えることがあったくらいだ……。実際に、今でも「あいつ、どうでもいいや!!」と笑っている……。
「他の同志達が見ております!!そう自棄を起こされますと――」
「あっ、あぁ……そうだな……。士気に関わるな……」
「同志……!!あなたはどっしりと構えるだけで良いのですから……」
「そうだな、後は任せる……!!この際、どうなろうと知ったことか……!!」
ガガーリンに説得されて、何か吹っ切れた様子を見せるヴァシーリー。こうなると意外と強くな――ってほしいけど、難しいだろうな……。
「同志参謀長!!そろそろ戦力を集中させてみてはどうでしょうか……?」
「良し!!敵の戦力層が一番薄いところに全主力部隊を集結させろ!!強行突破を図るぞ!!」
部下からの提案に、ガガーリンは
その作戦とは……先ず部隊を広範囲に展開させる。すると、敵の方も包囲殲滅するべく左右に広く展開させて包囲体勢に移る。その最中に、敵の中央の戦力が薄くなった隙を突いて一気に全軍で中央突破を図るというものであった――はずだが……!!
オーキデ王国 首都近郊 オーキデ派遣航空師団司令部
「甘いな……罠だと気付かないのか……?」
敵の策を簡単に御見通してしまうヴェン。彼に戦術教本の丸覚えは通じない。
――それとも、あえてかかってきたか……?まぁ……どちらでも良い……。
「直ちに予備の部隊に合図を送れ!!防空師団への連絡も忘れるな!!」
ヴェンの命令に、一斉に「ヤー(Ja)!!」と答える参謀達。
彼の方も
その策とは――先ず、あえて中央の守りを薄くして、そこを敵に突破させるように仕向ける。そして敵が突破を仕掛けたら、そのまま突破させてしまう。最後に突破させた敵を待ち伏せた予備の航空部隊と待機している防空師団(地対空兵器部隊)が、敵に攻撃を集中させるものである。
さらに、それらの攻撃をくぐり抜けても、空中機雷が待っている。
空中機雷――単語通り、空中に仕掛けられる機雷である。
とはいえ、現代ジェット機に対して、機雷の爆発で対抗するには無理がありそうという意見があった。そのため今回は爆発ではなく、電磁パルス(EMP)で対抗しようとしている。「“機雷”と呼べるのか?」という疑問が湧き出ると思うが、防諜上と欺瞞の観点から、関係者は“空中機雷”と呼んでいる。
高高度気球を使用することで長時間の滞空が可能で、遠距離からのリアルタイム且つグッドタイミングでEMPを発生させる。また、敵機や誘導ミサイルがある程度の距離に近づいた時にでも、発生するようにもなっている。
EMPの時間終了後は、もう一つの制御装置を機械(歯車等)式に作動させることで、待機状態に再び戻ることができる。
以上のことから――エネルギーの点を除けば、半永久的な運用を可能にしているのだ。
この兵器が電子機器満載の現代ジェット機には効果がある――と言われているが……まだまだ試作段階。それ故に、今回は数を揃えての迎撃実戦テスト。
――まさか、本当に実戦でやるとは……。とヴェンは内心に潜む心配を拭いきることができない。
そんな時、運良く攻撃を掻い潜った一機の誘導ミサイルが飛んで来ているものの、先の“空中機雷”と防空師団の活躍によって落とされることになる。
しかし、その戦果をすぐに確認できた者は僅かであったそうな……。
オーキデ共和国 合同解放軍ソ連軍オーキデ派遣航空師団司令部
「「……」」
ヴェンのド痛い反撃を受けて以降、沈黙を保つヴァシーリー。
既に彼の目からは、“生気”というものが抜けて、その空いたところに“絶望”が入り込んできている……。
何せ、敵に目立つような損害を与えられずに、被害はいつの間にか先の倍の四百六十機近くに上っている。『釣り合わない』どころの話ではなくなっている……。
――よ、読まれていたのか……!?
一方、ガガーリンの方も沈黙を保っている。上っ面ではどっしり構えているように
「同志達を退かせますか!?」
「粘らせろ!!何としても突破するんだ!!一機でも首都に侵入させるんだ!!」
参謀の声に、ヴァシーリーは怒鳴るように命令して応える。おまけにテーブルをも叩きつけているではないか!!
ここまで追い込まれたら、人間は何が何でも通そうとする。何せ、物理的な意味で命が掛かっているものだから、無理もない。それに加えて、一機だけでも首都上空に侵入すればいいという、一見すると楽な
こんな上司を頂いているソ連将兵の苦労は計り知れない。特に上層部からの信頼の厚いガガーリンの方が……。
そんな訳で、グルカロフを含むパ連の将兵らは彼らを一切信用していない。精々、我々パ連の弾除け程度になるだろうという共通の考えしか、彼らの頭にはない……。
「き、緊急事態です!!同志!!」
「今度は何だ!?」
「たった今――」
参謀の一人がガガーリンに報告しようとするも、突然司令部内を駆け巡る振動に
ガガーリンは「むう……!!」と小さく呻きながらも、必死に
「うわわわわっ!!何だ、何だっ!?」と、
「何が起こったか、説明しろーっ!!」
司令部内に、ガガーリンの叫びが響いていく……。
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