叱咤

 オーキデ共和国 合同解放軍総司令部 移動指揮者

「何だとっ……!?爆撃隊が全滅だと!?」

 その頃、合同解放軍の司令官座乗車内には、クリークの驚きに満ちた声が響き渡るところである。とはいえ、驚いているだけに収まっているわけではない。

――『ステルス』とほざいておきながら、意外と大したことないではないか!!と、彼の内心は嘲笑に満ちている。

「はっ……!!各方面からの情報を分析した結果、ほぼ間違いないかと……」

「そうか……それは残念なことだな……」

 スルガノフの話を聞いて、表面上は残念がるクリーク。

――元から期待などしておらんのだ……!!今度こそ、砲兵の威力を見せ付けてくれるわ!!と、内心では良い機会に巡り合えたことを喜んでいる。

“浅ましい”を“ポジティブ”に置き換えれば、指揮官の資質に恵まれていると言える……のかなぁ……?

 ちなみに善し悪しを別にして、「味方(同盟国)の失敗でやる気が出る時がある」点に関しては、パ連のほとんどの将兵に共通している。

「どうだろう……!?首都の攻略は、我がソビエトが誇るの砲兵軍団が到着してからでも遅くはないのではないかな!?兵力上、こちらは少数。ここは少しでも戦力を結集すべきところだと思うが……!?」

――くっ……!!我々に対する挑戦か……!?

 クリークの挑発とも取れる提案に、スルガノフは内心で怯んでしまう。だが、怯みっぱなしでいるわけにはいかない。パ連と個人の面子に、懸けても……。

「ご厚意はありがたいのですが――同志司令官の手を煩わせるわけにはいきません!!我々が到着する前に、同志政治委員が必ずや首都を落とすことでしょう!!」

「それでは、遠慮なく……期待させてもらおう……!!」

 スルガノフの抵抗とも取れる宣言に、クリークが本気でにやけながら応えた――その時に、「同志司令官、緊急事態です!!」という通信が無線機に入る。

 せっかくいい時に浸ろうとしている時を邪魔された形になってしまったのだから、クリークはつい声を荒げて、「一体、何だ!?」と応えてしまう。

 すると無線機から――

「我らソビエトの航空師団司令部が敵の襲撃を受けているようです!!隷下部隊からの報告では、司令部から煙と炎が上がっていることが確認されています!!」という凶報がもたらされてくる。

「んっ……!?貴様、何と言った!?」と、クリークはその凶報を一回目で信じることができない。信じられないではなく――信じたくないが故に……。

「ですから、航空師団司令部が敵の襲撃を受けているようです!!」

「な、何だと……!?」

 二回目で、信じる――というよりは信じざるを得ないクリーク。彼の顔から血の気が急速に引いていく。

「今、航空師団司令部との通信回線を開こうとしていますが、応答がありません!!ほぼ間違いないかと……!!」

「――あ、あわわわ……!!」

 止めを刺されて、遂にクリークは半ば現実逃避におちいってしまう。

――も、もしも、同志ヴァシーリーが戦死でもしていたら……。

 そして今のクリークの虚構には、アレクサンドロフスキー元帥が大砲に突っ込まれている自身を「この空弾野郎がっ!!」と罵倒した後に、その大砲の導火線に火をつける――という恐ろしい未来が浮かんでいる。

「……!!」

 そんなクリークを見て、スルガノフはムカつく笑みを浮かべてしまう……。


 オーキデ共和国 合同解放軍ソ連軍オーキデ派遣航空師団司令部

 一方、ハンとディクセンによって、踏んだり蹴ったりの航空師団。

「ご……、ご無事ですか!?同志師団長!?」

「あ、ああ……。な、なんとか……」

「――何をぼさっとしている!?直ちに奴を迎撃しろ!!」

 ガガーリンはやや弱っているヴァシーリーを支えた直後に、勢いよく迎撃命令を下してみせる。これにヴァシーリーが「そうだ!!たかが一機だけではないか!!」と続くものの――

「そ、それが……」という参謀の声によって、その勢いは殺されてしまう。

「な、何だというんだ……!?」

 ガガーリンは参謀の反応に苛立いらだちを覚えるものの、それを必死に押し殺して尋ねてみることに努める。

 それは今も敵の攻撃が続いているため、苛立って怒りを周囲にぶつけている暇さえ惜しい為だ。敵にぶつけねば!!

「げ、迎撃しようにも、航空師団われわれにはろくなMG用対地上兵器が配備されていません!!」

「それに加え、飛行場も損傷して、司令部直衛の機が飛び立てません!!」

「よって、今の航空師団われわれには陸と空の両面からの迎撃手段は――皆無です!!」

 参謀らの報告に、ガガーリンは――

「な……!!」と動揺を抑えきれない。

 一方、師団長のヴァシーリーに至っては――

「へ……!?」と、何とも間抜けな反応。

 ちなみに、“屁”どころの問題ではない!!全参謀も間抜けな反応をする師団長ヴァシーリーを見て、説明不可つ絶対の不安に駆られている……。

「同志参謀長!!ここは周辺にいる同志達(航空部隊)や防空師団の同志達にも連絡を取るほかありません!!一刻も早く彼らに――」

「言われなくても、分かっている!!直ちに、周辺にいる同志達と通信回線を繋げ!!

 それと防空師団や督戦隊の同志達にも連絡を取れ!!この際少数でも、MG《モビルギア》が配備されている部隊ならどれでもいい!!

 手の空いているものは、航空師団われわれの被害状況も調査しろ!!大至急だ!!」

「同志参謀長!! 督戦隊はも角、防空師団のMG《もの》は対空用――」

「それでも、MG《モビルギア》を有していることに変わりはない!!とにかく、奴を無傷で帰すな!!いいな!!」

「「了解ダー!!」」

 参謀らの提言を連続してさえぎってまで、は矢継ぎ早に指示を出していくガガーリン。何処かかっこよく見える。

 今も『『了解ダー!!』』と応えた参謀らの瞳が輝いている。その尊敬の眼差しは、もちろんガガーリンに注がれている。

 このような状況でも、希望を捨てていない証拠だ。

 一方、通信将校から報告を受けている最中のヴァシーリー。

「同志師団長!!既に司令部ここの発信機能は失われております!!加えて、予備の通信室も損傷が激しく――」

「どうにか直せ、馬鹿!!お前の責任だぞ!!」

 報告を聴き終えるまでもなく、彼はすかさずその通信将校を叱咤してみせる。一応指揮官としての職務は全うしている様だ。

「だ、だ、だ、了解ダー!!」

 叱咤されて、通信将校は慌ててきびすを返して走っていく。直せる可能性が砂の一粒ほどある予備の通信室へと……。

 だが、あの慌てようではその可能性も吹き飛んでしまうことだろう。いっそのこと、自身を落ち着かせるために「一!!二!!三!!」と数えた後に、「ダーっ!!」とでも叫んでからでも良いのではないだろうか?まぁ、効果は保障しないけどね……。

 続いてヴァシーリーは別の将校から「同志師団長!!」と声をかけられる。

「今度は一体、何だ!?」

「あれをご覧ください!!」

 将校が示した先には、大型のディスプレイがある。つい先ほど、航空師団司令部ここを攻撃している最中のディクセンを映していたが、今となっては只々漆黒の闇を映し出している……。

「何だ……真っ暗で何も見えない……!!奴め、煙幕でも張って消えたか!?」

「いえ……カメラがやられただけです!!」

 ヴァシーリーの推測を、思い切り「ボキッ!!」と折ってしまう将校。

 一瞬にしてキレたヴァシーリーは、身近にある瓦礫がれきの一つを手に取って――

「それを早く言え!!そもそも、俺が見る必要が無いだろうがっ!!」という言葉と共に、その瓦礫を先の将校に思い切り投げつけた!!

 その結果、瓦礫は将校から外れたものの――

「ひーっ!!も、も、申し訳ありませーんっ!!」と、彼の精神のど真ん中に命中。

 まぁ……あんな折られようでは、大抵の方はキレてしまうことだろう。私でもキレてしまわざるを得ない(少し)。

 まだ怒りが収まらないヴァシーリーは、身近にある別の瓦礫の一つを手に取ろうとしている。まだ動揺している将校は身に迫る危機に気付いていない、その時――

「同志師団長!!どうやら、現に奴が消えているようです!!」というヴァシーリーの副官の声に救われることとなった。

「何!?」

 副官の声に反応したヴァシーリーは、瓦礫を手に取ることやめた。この時点で、将校に迫る危機は去っていった。

「何だと……!?」

 副官の声を聞きつけたガガーリンも加わる。

「報告では、『奴の姿は煙幕を張った後、見えなくなった!!』ということです!!おそらく、司令部ここから逃げたものと思われます……」

 そこへ、予備の通信室から戻ってきた通信将校も加わるが――

「――げほっ、げほっ……!!通信室の……復旧の見込み……皆無……!!」という言葉を必死に吐き出した後、その場に倒れこんでしまった。

 何かしらの衝撃を受けた後のだろうか。彼の服はボロ雑巾そのものに見える。

 その傍らには、彼の部下と思われる通信兵もいるが――

「付け加えまして……部品にも被害が……及んで……」と、先の上官と同じようにその場に倒れこんでしまった。おまけに、彼の服も同じようにボロ雑巾そのものに見える。

 つまり、今の両者は――ボロ雑巾掛ける二。

「誰か余裕のある者は、同志軍医らを呼んでやれ!!二人を医務室に運んでやるんだ!!」

 そんな両者を見かねたガガーリンは、軍医らを誰か呼ぶように命令する。すると――

「はっ!!」という返事が返ってくる。

 とはいえ、誰が命令に応えてくれたのかは判別しようがないし、どうでもいい……。

「同志参謀長!!最早、手近な部隊に通信を代行させるしかありません!!」

「仕方ない……是非、そうしてくれ!!どの部隊にするかは任せる!!とにかく急がせるんだ!!」

 参謀の提案に乗らざるを得ないことを察したガガーリンは、直ちにその提案を実行するように命令する。

 この後、その参謀が「了解ダー!!」と応えて、彼とのやり取りが終わる――かに見えたのだが……。

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