「さざなみ」は何を象徴するのか

冒頭、そして作中に時折現れる漣(さざなみ)。主人公の少年を翻弄するそのイメージは、この作品の持つ雰囲気そのものでもあります。

エピソードをひとつ読み進めるごとに、ひとつの物事が明らかになり、そして、またひとつの謎が現れる。よせてはかえす漣のように、物語は清らかな音を立てながら、読み手に向かって次々と押し寄せてきます。気配すら感じなかった伏線に驚き、登場人物の不可解な言動の理由を発見し納得するたびに、すっかり物語の漣に翻弄されていることに気付かされます。

特に、少年の過去が、彼の心の奥底に沈んだ思いが、徐々に明らかになっていく様は、波が砂浜をえぐるかのように静かでありながら、しかし抗い難い迫力に満ちています。「キャラクターの過去設定の説明」という難しい部分を、これほどまでに巧みに語り、読み手を退屈させないばかりか、この部分ですっかり読者を主人公に感情移入させてしまう手腕には、ただただ感嘆してしまいます。

緊張感のある「波」の合間には、少年少女の爽やかなやり取りや、主人公の目を通した繊細な情景描写が織り込まれ、ストーリー構成における見事な緩急の妙にも唸らされます。

未だ明らかにされていない「漣」の正体や登場人物たちの抱える謎は、これからさざなみのように少しずつ明らかにされていくのでしょう。すべてが波の上に露わになるまで、この作品からは目が離せません。(第8話「力-①」まで読了)

その他のおすすめレビュー

弦巻耀さんの他のおすすめレビュー203