「聴覚」は最後まで残る。この冒頭に、ドキリとします。正直なところ、死に際を描いた物語は少々苦手だったのですが、この出だしを見てしまっては続きを読まずにはいられませんでした。
最期の五分間を迎えた「わたし」に残されたのは聴覚だけ。そんな「わたし」が望むのは……。人を見送ったことのある者も、そうでない者も、深く考えさせられます。
感謝と優しさに満ちた「わたし」の最期の言葉は、もう声にはならなかったけれど、それでも彼に届いたのだと信じたい。そんなことを思って、読後もずっと切ない気持ちになりました。とても心動かされる作品です。