現代版・羅生門

この物語の重心は、倫理観にあります。

芥川龍之介の描いた『羅生門』では、若い下人が飢餓により倫理を捨てて盗賊になろうかどうか迷ったあげく、自分を納得させる大義名分を手にして老婆から着物を奪います。

『羅生門』の時代なら、合戦も盗賊も疫病もありふれているでしょうから、今の時代より死が身近にあったので、倫理に反することをやっても反動が小さくなります。老婆から着物を奪った下人だって、改心すれば何食わぬ顔で日常生活に戻ったところで、責める人間なんて皆無でしょう。

しかし、この物語における主人公は、死が遠い現代日本に生きているので、とある倫理に反することを事故のごとく実行してしまうことで、大きく道を踏み外していくことになります。

若い下人のような物理的な強盗を現代でやれば、法治国家の裁きを受けることでしょう。しかしこの物語の主人公がやった“罪”は法治国家によって裁くことのできない特殊能力によるものでした。

法的には問題ない。しかし倫理には反する。

そのとき主人公はどうするのか?

あなたがラストシーンを読むことで、知ることができるでしょう。

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