僕はピーマンが食べられない 11
家の中に入った僕はしのびあしで奥に進む。これで魔物とは遭遇しないぞ!
不法侵入で訴えられたらどうしようと考えたものの、あっちを誘拐と監禁で訴えることが可能なので、その考えは杞憂のはずだった
玄関の鍵が開いており侵入は簡単。その無用心さが田舎らしい。
とはいえ金雀枝槐が家のどこにいるのか分からないうえに、歩き回って百部に見つかってしまうのもまずい。
息を潜めて耳を澄ます。すると声が聞こえてきたのでそちらのほうへと進む。
「お嬢さん、どうかわが社を手伝ってくれませんかね?」
「人をこんなとしておいてよくそんなことが言えるわね! ゲスの極みよ! 両成敗されなさい!」
「お嬢さん、落ち着いて。お嬢さんは持ち前のしつこさを活かして単価十万円のこの幸せの壷を売るだけでいいんです。それだけでお嬢さんはここから解放されるし、ひとつ売るごとに二万円受け取れるんです」
「えっ、そんなに?」
二万円という報酬に驚いた金雀枝槐が声を荒げる。
高貴には程遠い服装のおっさんはその動揺を好機と判断。
「ええそうです。いかがでしょうか?」
「うーん、でもなあ」
どうして金雀枝槐は迷っているのだろうか、僕には甚だ疑問だった。
僕だったら幸せの壷を売りつけて二万円を手に入れ……ゲフンゲフン、一瞬悪の心に染まりかけたような気がしたがおそらくきっとそれは気のせいだ。
そんなことをしてはいけない。
明らかに詐欺まがいの商売というか詐欺だ。
幸せの壷を買って幸せになれるのは買った側じゃない。むしろ十万円という大金が手に入った、売った側が幸せになるのが幸せの壷の正体だった。
そんな商売をやらせようとしている百部を倒し、悪堕ちしそうなチョロイン金雀枝槐を助けるべく僕は飛び出した。
大きな物音を立てながら!!
「誰だ!」
はっきり言おう、大失態だった。
不意打ちでずっばしと倒せば一瞬で事が済んだわけで。
そのチャンスを自分で不意にしてしまった。
「あんたは私と同級生でピーマンを残す竜胆侘助!」
金雀枝槐が無駄に説明を入れる。助けに来た人の正体ばらすとか危機管理能力ないぞ!!
「……やあ偶然入った家にキミがいたから、助けに来たよ」
「何その泥棒みたい言い方!」
むしろRPGの勇者だよ。でも勇者は問答無用で王様の部屋のタンスからステテコパンツを奪って道具屋に売るから、泥棒と呼ばれたほうがマシのか。
マジに悩む。
「それよりも今日の給食のピーマンは食べたの?」
今日の給食の献立を把握していた金雀枝槐が尋ねてきた。
「もちろん残した!」
「偉そうに言うな! なんで食べないの!」
「スタッフが美味しく食べるからさ」
坊やだからさ、みたいに言い放つ。
いつも通りの会話に違和感が消失していく。
けれどそれを遮るように
「きえええええええええ!」
おっさんが規制して欲しいぐらいに奇声を発した。理由は知らない。
無視して会話しているのが気に食わないとかかも、たぶん。
「私を無視するなあああああああ!!」
「うるさあああああああああい!」
予知能力もないのに当たって少しばかり嬉し恥ずかしの僕を尻目に、負けじと金雀枝槐が怒鳴り声を上げた。
大声を張り上げたふたりが息を整えたあと、
「小僧、どうしてここがわかった?」
「超能力者だから」
格好つけて事実を述べてみる。
「プッ」
笑ったのは金雀枝槐だった。ちょっとヘコんだ。
「……冗談だかなんだか知らないが、バレてしまった以上タダで済むと思うなよ」
「それってお金を払ったら解決する?」
それは無料で済まないなら有料で済むという屁理屈から出た言葉だ。
そんな屁理屈をものともせず、百部はポケットからナイフを取り出した。
まあでも僕には超能力があるので恐れることはない。
僕はカバンからピーマンを取り出す。ちなみに準備していたピーマンはこれが最後だった。
「ピーマンを常備しているとか危なすぎる少年だ。何を考えている?」
「あんたに言われたくないんだけど」
ナイフを常備しているほうが危なすぎる。
「田中さんちのピーマン……?」
僕の取り出したピーマンを見て金雀枝槐が産地を当てる。確かにそうだけどなんでわかった? 危なすぎる。
「ってかなんで持ってるのよ!」
「金雀枝槐。ひとつ教えてやる。僕が人前でピーマンを食べられないのはね」
ピーマンを齧り、
「こんな姿になるからだよ」
ぴ~マンに変身する。今度は緑色。色に対応して僕の能力も変化する。
緑のぴ~マンは戦闘能力に特化していた。
それを見て金雀枝槐が言った。
「ダサい」
僕はその場に崩れ落ちた。そして百部に取り押さえられ、捕まった。
まさか、『仮に僕に仲間がいて、その仲間がダサいと言ったら僕は戦う前に負けるだろう。(ちなみに人質でも同様)』という伏線がここで回収されるとは思わなかったね。
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