僕はピーマンが食べられない 9

 金雀枝槐は、僕と別れた後一度は帰宅して、その後母親に「ポ○ラに行ってくるわ」と伝えたらしい。

 ○は隠してあるわけではなく、ガチでそう言ったらしい。発音的にはポマルラ。

 ○に入る文字はなんであれ、それは知る人ぞ知る赤い屋根のコンビニだった。

 そこの監視カメラに金雀枝槐の姿が確認されたことから、その帰りに何かが起こって、行方不明になったということになる。

 つまり僕はそのコンビニから追跡すればいい。

 そこまで分かればナポレオンの辞書と同様、僕に不可能という文字はない。

 備えあればうれしいな、とはよく言ったものだ。わざとボケてリラックスする。準備はしておいて憂いはない。

 僕はカバンから黄色ピーマンを取り出すと、それを齧った。

 そして変身する。


 ぴ~マンに!


これこそが超能力者竜胆侘助、すなわち僕の本当の能力。

 闇の中に消えた真相だった。

 変身後の姿を言えばはっきり言ってダサい。

 もしこの容姿が変更できるなら僕は悪魔にだって魂を売るし、世界の半分をやると提案されても、むしろこのダサさをどうにかしてくれと逆に提案し返すだろう。そのぐらいダサい。

 仮に僕に仲間がいて、その仲間がダサいと言ったら僕は戦う前に負けるだろう(ちなみに人質でも同様)。そのぐらいダサい。

 しつこいぐらいダサいと連呼することでそのダサさが理解してもらえたと思うが、なんてことはない、黄色い全身タイツにジャック・オ・ランタンみたいな顔、ええとつまりハロウィンで見かける目と口の部分を切り取ったかぼちゃのピーマンバージョンと言うべきものを被っていた。

 ぴ~マンに変身した僕は赤屋根のコンビニから金雀枝槐の足取りを追う。

 昼間だから人通りが多いと思うのは都会の感覚。むしろ逆だ。ここらへんは昼間も人が少ない。

 当然夜も。日が落ちれば、電灯もなく、携帯電話の画面から発せられる光を人魂だと勘違いしてしまうほど暗い。

そもそもこんなところを平日に歩いている人なんてよっぽどの暇人か働いたら負けと思っている隣家のお兄さんぐらいである。

 通勤の移動手段は専ら自動車。田舎暮らしに憧れる都会人は免許持ってないとすぐに交通面では負け組に転落する。

 学生だと移動手段は自転車だが、今は平日の昼なので自転車が走っている姿もない。

だから僕が白昼堂々、ぴ~マンの姿をさらしていても大丈夫なのだった。色んな意味で挫けることはない。

黄色ぴ~マンに変身した僕は、早速この姿でしか使えない能力を発動する。

 それは『ある特定人物の昨日の行動を追う』というものだ。

 行方不明になった金雀枝槐を探すのに最適な、話を進めるのに最適な、ご都合主義超全開の能力のようだが、それは気のせいだから気にしてしまったほうが負けだ。

 ちなみにぴ~マンの変身時間は案外長く、某光の巨人と活動時間と比較すると約10倍(当社比)の三十分間。

 早速黄色ぴ~マンの能力を発動すると、八倍速で金雀枝槐の昨日の行動がリプレイされる。VHSを早送りしている感じだ。

 VHSを知らない人にはとっておきの呪文がある。ググレカス。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る