僕はピーマンが食べられない 12

 目を覚ました僕は拘束されていた。金雀枝槐と同じ緊縛状態。そんなプレイは望んでないので損なプレイだよな、などとアホなことを考えてみる。

 当然、状況は打破しない。

 数年前の話だけれど政治家の誰かが新しい政党を作る可能性はあるかという質問に、「あらゆる可能性は全てオープンです」と話していたが、まったくその通りで、あらゆる可能性は全てオープンだ。

 だから僕が、にんじんが食べられない蘭蘭か、グリーンピースが食べられない千屈葉菘が助けにくるという可能性をも全てオープンだと思ってしまうのも不思議ではない。僕はふたりが似たような超能力者だって信じていた。僕の変身能力者としてのアイデンティティーが崩壊するとしても。

 それにもしかしたら僕たちを捕まえたおっさんが、新しい判断で増税を取りやめたみたいに新しい判断で解放してくれるかもしれない。その可能性だってオープンだ。

 まあ助けもなく解放もないあたり僕が抱いていたあらゆる可能性は全てクローズなのだけど。

「捕まるなんて何しに来たのよ」

 ようやく僕が目を覚ましたと気づいた金雀枝槐が怒鳴る。

「キミがダサいなんて言わなきゃ、事件は解決して、今頃、僕はおいしいアイスにありついていたよ」

「おいしいアイスに蟻付いていたの? そりゃ災難ね」

「助けに来たりするんじゃなかったよ」

 いつでもテキトーなことを言うのが金雀枝槐という女だ。

「何それ。怖かったよ~、とか言って欲しいわけ?」

「……別に」

「それ、大バッシング受けるようなインタビューの答え方よ?」

「これ、インタビューじゃないから」

 思わず僕は項垂れた。暑さも原因だった。

 まだ夏じゃないのにとにかくこの部屋は暑かった。

 周りには幸せの壷らしきものがたくさん置かれているが、それは幸せを増幅するというよりも、むしろ暑さを増幅していた。熱気がこもっている。

 しばらくすると静かになった。

 金雀枝槐もなぜだか無言。

 暑いのだろう、と決めつけた。

「悪かったわね」

 ああ、これは夢か。あの金雀枝槐が謝るはずがない。

「言っとくけど、夢じゃないわよ」

 こいつ、僕の心を読みやがった。

「もしかしてエスパーか!」

「それはあんたでしょ。あのダサいのに変身できるんだから」

「……」

 金雀枝槐があっさり言った言葉はまたもや僕の精神を抉る。

 この世にはMPがゼロでも戦闘不能になるゲームがあってだね、もしこの世がその世界なら僕のライフはとっくにゼロだよ。

「ごめん、もしかしてダサいって禁句なの?」

 禁句と理解しておきながら、もう一度さらりと、それこそ額から垂れた汗を無意識に拭うぐらい自然に金雀枝槐は言いやがった。

 もう三回まわってワンと死ねよ! 意味不明な悪口を吐き捨てる。

「ごめん、ごめん。悪かったわよ」

 すると金雀枝槐が謝ってきた。もうかれこれ三回も謝っている。

 もう確定だ。これは夢だ。あの金雀枝槐がこんなに謝るはずがない。

「言っとくけど、夢じゃないわよ」

 こいつ、僕の心を読みやがった。

「もしかしてエスパーか!」

「それはあんたでしょ。ってこの会話さっきもした!」

「うん、知ってる」

 当然、わざとだった。

「もう竜胆侘助と話すと疲れる」

「そりゃこっちのセリフだよ、金雀枝槐」

「で、さっきのにはもう一度変身できないの?」

「できるさ、ピーマンがあればね」

「そうなんだ。へぇー」

「ってそこはピーマンなんてないわよとか言うところだと思いますけど?」

「ところがどっこい。私を誰だと思っているの?」

「えーと、ピーマンを食べろといつもうるさい女の子かな……」

「あーもう確かにそうだけど、それはそれでなんか寂しいじゃない」

「で結局何が言いたいんだよ?」

「つまりね、私はピーマン農家の娘なのよ!」

「……で?」

「だからつまりよ、トマト農家の御曹司がいつもトマトを持ち歩いているように、ピーマン農家の美少女もピーマンを持ち歩いているのよ」

「へぇ~」

 驚きはしたものの、関心を持ちそうなほど食いついたら「どう? すごいでしょ」とか言いそうな気がしたのであくまで興味がなさそうなふりをしておく。

 そうしたら蹴られた。僕が。当然、金雀枝槐に。

 その痛さを七段階評価で言うと……ってもうこれはいいか。

 とにかく金雀枝槐はピーマンを持っているらしい。

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