僕はピーマンが食べられない 8
嘘だけど。
紛うことなき嘘だけど。
僕というショボい超能力者がいても、日常は常に退屈で面倒くさい。
長すぎる話に定評のある校長の話を簡潔に完結させるとこうだ。
「金雀枝槐さんが行方不明になりました」
そういえばニュースでなんか誰かが行方不明になったと報道していたことを思い出した。
ようやく僕は今朝の違和感の正体に気づく。
金雀枝槐だけがいない街。
それに違和感を覚えたのだ。
でもそれってつまり僕の日常に金雀枝槐が組み込まれているってことにもなって甚だ迷惑なのだが、この違和を感じている状態ってのも、気持ち悪い。
面倒くさいことになったなあ。
とはいえ金雀枝槐がどこにいるかなんて僕が分かりっこないのだ。と知らんぷりできることもできる。
けれど実は本当のことを言えば金雀枝槐を見つける手はあるっちゃあった。
それを使わずに知らんぷりして本当にいいのだろうか。
イインダヨーと気軽に背中を押してくれる人はいない。
それに僕はその力を痛快奇天烈に使いたくなかった。
“痛快奇天烈”などという文法的に不適切な表現を繰り出してしまうほどに、僕は金雀枝槐がいない街、日常が寂しかったのかもしれないのも事実だった。認めたくはないけど。
金雀枝槐がいないという違和に包まれながらも午前中の授業をこなし、給食へ。
案の定、ピーマンが入っていたけど丁寧に取り除き、ピーマン以外をきれいに食べる。ごはん粒ですら残さない。
「ご馳走さまでした」
食べ終わっても金雀枝槐は現れない。
ピーマンだけが残ったトレイを手に持ち、そのまま回収口へ。
回収されたピーマンはあとでスタッフが美味しくいただきました。たぶん、きっと。
真実はゴミ箱のなかだけれどメディア的にもそういうことにしておいたほうがクレームは少ないような気もする。
「なんだか寂しそうですね」
にんじんだけをトレイに残した蘭蘭が珍しく僕に話しかけてきた。
「そうかな?」
「少なくともそう見えますよ」
「あたしもそう思うぜ」
同意するように男勝りな声をあげるのはグリーンピースだけをトレイに残した千屈葉菘だった。
「そうかな? 勘違いでしょ」
そう言ってみたが、ふたりはにやにやしたままだ。僕の言い訳を聞く気がないらしい。
やれやれ。気苦労を背負わされるラノベ的主人公のようにため息をつく。
ふたりに何が分かるっていうんだ。ありきたりな反論をしてみる、心の中で。何か図星的な一言を恐れて、実際には何も言えなかった。
でも、認めたくなかったことを認めるしかないのではないだろうか。ふたりの指摘に思わずそう思ってしまう。
おそらく、僕は金雀枝槐がいなくなって寂しいっぽいらしいと思われるっぽいらしいふうなのだ。
曖昧すぎるのはまだどこかに認めたくないという捻くれが滲み出ていたからかもしれない。
いや正確に言えば、金雀枝槐にいつも通り糾弾される日常が好きだったのだ。そうじゃないのが寂しいということだ。ほらこれなら断言できる。
休憩中ですらモンスター狩猟に勤しんでいる烏合の衆のなかに自称地獄耳を見つけると僕は言った。
「肘が痛いから帰るって海棠に伝えておいて。あと午後の授業をノートにメモっといて」
自称地獄耳はうんともすんとも言わなかったが、自称地獄耳なのだ。聞こえているに決まっていた。もし聞えてなかったら、耳を返上しろ、地獄に。
僕はカバンを掴むと学校を飛び出した。
広い玄関を抜けるとネギ畑であった
……ってこれはもういいか。
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