僕はピーマンが食べられない 5

 突然の出来事に言葉とチョップが止まる。

 おっさんは傍の横断歩道を渡り、近くの家を訪ねていた。

 訪問販売のようだった。

 おっさんが出てきた雑木林を覗く。その先にも民家があった。

 新大陸を発見したコロンブスほどの驚きはなかったけれど、いつもの道にこんなところがあったのは新発見だった。

「あの人、何の訪問販売だと思う? ピーマンかな?」

 気になったのか金雀枝槐が僕に尋ねてくる。

「3万%あり得ない」

 確かに寂れた商店街の一角でおばあさんが野菜を路上販売していたり、自分の家の駐車場に野菜を一律百円で無人販売しているところを見たことはある。

 けれどもピーマンの訪問販売はありえない。

「絶対にあり得るってことね!」

 変な解釈して、変な納得をした。まあ確かにどっかの選挙でそんなことはあったけれど。

 ともかく僕が3万%断言できたのには理由がある。

 僕はおっさんが横断歩道を渡る前に手に持っていた箱を見ていた。そこに『幸せの壺』と書かれていたのだ。

 変な解釈ができないようにもう一度言い切る。

「絶対にない」

 金雀枝槐はナイフハンド・ストライクを放った! 会心の一撃! りんどうわびすけに10000のダメージ!

 痛さを恨んでしまうほどの一撃を受けた僕は金雀枝槐を睨みつけた。

 万々が一に金雀枝槐のぼうぎょが下がったところで意味はなく、挙句、一万ダメージ受けても僕は死んでない。

 苦痛が続くことにうんざりしていた。RPGのボスってこんな気持ちなんだね。

 ナイフハンド・ストライクことチョップをされるのはもう残念なことに日常茶飯事と言ってもおかしくはない。それはそれで嫌な日常だけれど。

 でも今日のようにもしかしたらギネスに申請したら載るんじゃねwwwと思えるほどチョップされた日はなかった。

 既に頭が頭痛で激しく激痛で痛い僕の脳内は逃げろ、と警告を出していた。文脈にエラーが出るほどに。

「それじゃあ僕はこっちだから!」

 僕は逃げ出した。

「待ちなさい!」

 待つわけがなかった。僕は牛の鳴き声のようなダッシュで、すなわちモーダッシュで逃げる。金雀枝槐と家が近くなくて良かった。

 同時になぜだか幸せの壷を訪問販売していたおっさんのことが気になった。

 もしかしてあの人が僕の結婚相手……アモーレか!

 ……という史上最悪の冗談は我ながら鳥肌ものだった。

 忘れよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る