僕はピーマンが食べられない 14

 僕たちを捕まえていた部屋に百部が入ってきた途端、赤ぴ~マンの僕は百部の頬を殴った。そりゃもう彗星のごとく。シャァっと。

 それは不意打ちで、不意打ちでしかない。

 最初にここに来たときに不意打ちし損ねたことをきちんと学習し、それを活かす僕は優秀としか言いようがない。

「……竜胆侘助。あんたは敵を倒す前とか倒した後に決めセリフとかはないの?」

 金雀枝槐が呆れたように言った。

 フツー最初に言うのはお礼じゃないかな? とかいうと殴られそうなので、

「……残念ながら」

 正直に答えると金雀枝槐は不満顔だ。

 ピーマンをキバっと食べてオレ参上して相手の罪を数えさせてタイマン張るために通りすがりのふりをしつつ、ひとっ走りつき合わせて、「イッツショータイム!」と言わんばかりに跳躍して命燃やして「せい、やぁあああ」と飛び蹴りしてノーコンテニューでクリアすれば満足でもしたのだろうか。

「でこの人どうする?」

「バナナの皮に滑って勝手に自滅したってことにしたらいいと思うよ」

 ちなみにバナナの皮なんてまったくもって見当たらない。むしろ乾燥したみかんの皮が落ちていることに気づいた。

「自分の手柄にしないのね」

「しない、しない。そもそも僕がなぜここを突き止めたのか訊かれたら対応に困る」

「なるほど。つまりこの人はBananaの皮で自滅して、私が脱出ゲームをクリアしたかのように脱出したことにして警察に電話すればいいわけね」

「そういうこと」

 だけどなんでバナナの発音がそんな外国人じみてたんだ、今。

「ってか、私が捕まっている場所が分かった後、なんで匿名で警察に電話しなかったの?」

「慌てていると大抵そういうのは忘れるものだよ」

 去り際にそんなことを言って外に出た。

「どこに行くのよ」

「この姿って三十分経たないと元に戻らないからね、どっかに隠れておく。ここに僕がいるとややこしいし」

 黄砂防止用の林が近くにあったので、そこに身を潜めて、元に戻ってから帰ればいい。

「そう。分かったわ」

 僕が玄関の扉を閉めると「ありがとう、竜胆侘助」と聞こえたような気がしたけれど絶対気のせいだ。

 お礼を言う金雀枝槐なんて金雀枝槐じゃない。ドッペルゲンガーだ。

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