僕はピーマンが食べられない 15
次の日、全校集会があった。
まあ金雀枝槐が見つかりましたというご報告だった。
ちなみに犯人は即日逮捕された。
「ピぃぃぃいいいマあああンんんのぉおおお、おおおおばばばばばばけけけがぁああああああああ……」
どこぞの号泣会見みたいな自供は精神錯乱の一種としてみなされていたがコンビニの監視カメラにもピーマンのお化けが映っていたため、警察は何らかの関係があるとして調査しているとか。
これはすぐに打ち切られることだろう。
……じゃないと僕が困る。ネットではその映像が流出していて○○い(禁句)とか言われているらしい。
y●utuberもびっくりぽんなアクセス数らしいので、ほとぼりが七十五日で冷めるかさえ不明だった。
なんであれ、金雀枝槐は僕がピーマンを食べられない理由を知った。
そうなると日常は変わる。
いつも通りの糾弾なんてものはなくなってしまう。
それは果たして僕が求めていたいつも通りなのだろうか。
それはそれで少しだけ哀しく、でも今度はそれをいつも通りとして受け入れようと覚悟を決めていたのだが……
「ピーマン、食べなさいよ」
隣の席に座った金雀枝槐は、いつも通り僕にそう言った。
「理由も知ったのに、まだ言うか」
「理由? あんなの理由にならないわ。もっと私をギャフンと言わせるような理由を言いなさい」
「もしかして縁日で救える金魚のふんのことを言ってる?」
「それはギョフン!」
まあ金魚に限らず他の魚のふんもそう呼ぶけれど。なんにしろ僕が言わせたい言葉とは一字違いだ。
「惜しい」
「あ、もしかしてギャフンと言わせようとしていたのね!」
憤る金雀枝槐は見事ギャフンと言ってくれた。
「今、言った。これで安心してピーマンを残せるね」
わーい! 作戦大成功!
「幼稚! 夜討ちにしてくれるわ!」
「それでピーマン残せるなら大歓迎!」
「なわけないでしょ。お残しダメ、絶対! 残すな、キケン! スタッフが美味しく食べてくれるなんて幻想よ」
「その幻想をぶち殺す人が現れないかなあ」
いつも通り、金雀枝槐は理不尽だ。
「あ、もし残すんだったらキミの秘密言うよ。超言っちゃうよ」
金雀枝槐は最低の脅しを僕に披露してきた。
「むしろそんなこと言っても信じるほうが少ないと思うけどね。あと、ピーマン食ったらばれるから結局食べない!」
僕はきっちりと反撃して金雀枝槐を翻弄してやる。
「この野郎!」
言い返せないと悟ったのか、金雀枝槐は結局最後にはチョップという暴力を振るってきた。
なんでそんなにムキになるんだよ、と思いつつも昨日の出来事によって思い当たる節も出てきた。
「もしかしてこのピーマン。金雀枝槐の家で作ったピーマンなのか?」
「そうだけど?」
金雀枝槐はそれが何かというような表情をしやがった。
まあ、ピーマン農家の美少女だと言っていたからもしかしたらと思ったのだが、やっぱりそうだったのか。
ちなみに美少女のところはたぶん本人の冗談だろう。
金雀枝槐がそんなに可愛いはずがない。
「とにかくピーマンを食べなさいよ」
「だが断る!」
僕は逃げ出した。
「コゥラー!」
金雀枝槐が亀が背負っているもののように怒鳴り散らして追いかけてくる。
いつも通りだった。
僕のほうが速くて金雀枝槐の姿が見えなくなる。
そのまま屋上へと逃げ込み、観念動力でスーパーボールを操る。
いつも通りの日常だった。
充足感があった。
僕はこのいつも通りの日常を壊したくなかった。
だから僕はピーマンが食べられない。
ひとたび齧ってしまえば、そこはもう非日常だから。
僕はピーマンが食べられない -みっくす! 八手高校騒動録1- 大友 鎬 @sinogi_ohtomo
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