僕はピーマンが食べられない 3

 休憩が終わる間際、教室に戻ると金雀枝槐の姿は見当たらない。そこには午後からは専攻別に授業があるという0.01%の真実が隠されていたりする。

 僕が工業科情報通信専攻で金雀枝槐は農業科栽培専攻だったか。

 ……いや栽培専攻というのもなにやらおかしい響きだな。もしかしたら違うかもしれない。

 まあ他人の専攻なんてものは、政治家が私的に使ったお金に関して記憶がないぐらいうろ覚えだった。

 総合高校ということもあって、商業、工業、農業、水産、進学と五学科もある。そのうち水産科だけは、隣市に別校舎が建っていた。

 まあこの学校の周りはネギ畑だらけだし水産科実習ができないから当然と言えば当然。

 退屈しのぎの説明はこの辺にして、うすらナマコ、もといまなこでホワイトボードを見つめる。何を隠そう授業が始まっていた。

 とても内容の分かりにくい電気基礎の授業は聞く気にもなれない。

 担任で電気基礎の担当である海棠かいどうのテスト傾向は一年次に既に把握しているので、今度のテストも怖くもなんともない。

 駄菓子菓子、じゃなくて、だがしかし寝るとすげー怒るので、やむなくこうして思考に耽っていた。

 そもそもなんでこんな田舎にこんな総合高校が建っているかといえば、創立者であり、校長である八手という人物の信念が『何もないところから何かが生まれる』というものだかららしい。

 だから廃坑寸前の中学校を買い取って増築&改装をして、この高校を建てた。

 もちろん市の中心街に行けばもっと充実しているが、駅前は大抵芸能人がやってくると第一声が「人がいない」と言うぐらいに閑散としている。「静かでいいところ」なんて気の利いた、皮肉も利いたコメントぐらいすればいいのに。

 そんな市の中心街と逸れたここには何があるかといえば大抵はコンビニで。大半は畑と、黄砂の被害を防ぐための防砂林ぐらいか。

 全国チェーンのファミレスなんかの類はここらへんから歩いてはいけない距離にある。

 ゲーセンやボーリング場なんて娯楽施設も一時間に一本の電車を乗り継いで駅前に行かないと存在しない。映画館なんて村か隣県に足を運ぶ必要がある。

 自動改札は最近できたけどまだ駅も無人が多い。

 そんな場所だからこそ八手校長はこの場所を選んだ。

 ちなみに授業料が格安なのは生徒を呼び込むための罠だろう。実際、僕も授業料が安いから入れという親の脅しを受けてここに入学していた。

 将来のことを何も考えさせてくれない、夢も希望もない選択だった。

 格安の結果なのか全国各地から生徒が集まり周りにも商店が出来始めたが、元々畑だった場所は畑のままだ。

 当然、全国各地から来た学生は寮暮らしだ。

 寮生で親友の芥子菜からしなあかねは放課後は引きこもってゲームをしているが、帰宅組も大抵そんなもの。

 放課後はだいたい携帯ゲームを持ち寄って、モンスターを狩るハンターかポケットサイズのモンスターを最大六匹まで操って戦っていた。

 思考を遮断するかのようにチャイムが鳴り、分かりにくい電気基礎の授業が終わる。残る五、六限目は実習だった。

 実習は三十八人を六人~七人のグループに分け、六個の実習をローテーションで行っていく。

 前回、僕達の班が受けた実習『電気回路の配線』は、工業科情報通信専攻の生徒全員がつまらないという評価を下していたが、確かにそうだった。

 しかも提出するレポートが多すぎるのも最悪で、全員が激おこプンプン丸という得体のしれないものに変身してムカ着火ファイヤーを放っていた。

 その分、今日行う『ラジオ製作』は、あまりの嬉しさに凶器を乱舞してもいいんじゃねと思うぐらい狂喜乱舞した。まあでも、さすがにハンダゴテとか投げたりしないけど。

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