僕はピーマンが食べられない -みっくす! 八手高校騒動録1-
大友 鎬
僕はピーマンが食べられない 1
僕が持つトレイ。その上にあるお皿にはナス科の一年草でトウガラシの栽培品種だけが乗っていた。
その正体は隠さずとも丸わかり。ピーマンだった。果肉は種子以外空洞で、かじると青臭い風味と、アルカロイドによる苦味が満喫できた。
そのピーマンが皿に残っている理由はただひとつ。
僕はピーマンが食べられない。
子どもの頃は苦味に対する感受性ってのが強いらしく、嫌いな子どもは多いが、大人になるにつれ食べられるようになるらしい。
が僕は高校生になってもピーマンが食べられない。
ただし正確に言うのならば僕はピーマンが嫌いではなかった。ただ食べられないというだけ。そこは誤解してはいけない。
「
ピーマンを残そうとしていた僕を目敏く見つけて
食器の返却口はあと少しなのに手を広げて僕の向かう道を阻む。
「ピーマンピーマンあんた食べなさいピーマン」
早口で金雀枝槐がそんなことを言った。
DAI語っぽく略すとPPAPだけれどそれがどうした。
「なんと言われようと僕は食べないよ」
「意味分からない。黄色いピーマンは食べられるくせに」
「いや黄色ピーマンも食べられないよ」
もちろん黒も赤も橙といったカラーピーマンも食べられない。フルーツピーマンもダメ。
「嘘吐かないでよ。今日のサラダに黄色いピーマン入っていたじゃない」
あー、なるほどね。金雀枝槐の勘違いに僕は気づき、指摘する。
「それ、パプリカだよ」
「レプリカ?」
「それは俗に言う贋作や偽物」
「アフリカ?」
「それはヨーロッパの下の大陸」
「ユナイテッドステイツオブ!」
「あー、アメリカって言わせたいんだね」
「その通り! って話がそれたじゃない!」
いや自分でそらしたんだろうが。
「ってかなんでいっつもピーマンだけを残すのよ!」
「いや食べられないからでしょ!」
「ピーマン農家がどれほど苦労して作ったか分かっているの?」
「いや苦労して作っているのは分かっているつもりだよ」
「だったら残さず食べなさいよ」
「僕が残すのは残さなければならない理由があるからだよ。人はそれぞれ理由をもって行動しているんだ!」
「じゃ、その理由は何よ」
……力説に冷静にツッコミを入れられた。
理由か……それは簡単に話せるものじゃない。
僕の右腕が疼く……じゃあダメだろうな。
真実はいつもひとつだけれど、おそらく言ったところで信じない……見た目も頭脳も青年な僕の決めつけかもしれないが、十中八九、そんな確信があった。
仕方ない、いつも通りの手を使うか。
「あっ、あんなところに
「なんですって!?」
指す方向に顔を背けた隙に横を通り抜け返却口にトレイを置いた僕は食堂から逃げ出す。
「飛んでないじゃない、ピーマンなんて飛んでないじゃない!」
大事なことだからか二回言った金雀枝槐は
「……ってこら待ちなさい」
ようやく逃げ出した僕に気づく。
僕が返却したトレイからピーマンを抓んで金雀枝槐が追いかけてきた。
金雀枝槐は理不尽なのだ。
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