確かな文章力で綴られる、あり得ないのに生々しい不条理小説

 「妻が魚を出産する」という意味不明過ぎる始まりから綴られる不条理小説です。既に他のレビュアーさんが言及していますが「朝起きたら虫になっていた」という不条理小説「変身」で有名なフランツ・カフカを思い起こさせます。

 この手の不条理小説を不条理小説として成立させるには高い筆力が必要で、ネタ一発で勝負しようとすると笑えないシュールギャグが出来上がって終了します。「人間が魚を出産すると面白い」だけでは作品にならないのです。しかし本作の作者様は確かな文章力でそれを乗り越えており、現実では絶対にあり得ない世界観に不可思議な生々しさを与えることに成功しています。カクヨムには珍しい、土台のしっかりした文章を書かれる方です。

 不条理小説の常として、魚を出産するという大事件を起こしておきながら物語はどこか淡々と進み、分かりやすくメリハリの利いた話にはなりません。まるで白昼夢を見ているような感覚を味わいたい方は、是非。

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