吸精30秒
マヒナが
「ま~っはっは! どうだ、参ったか! 私に勝負を挑んだのが運の尽きよ! 我がイサク家は
それを見ていたら何だか無性に──
「い、痛っ! なっ、なにをなさいます、陛下!?」
ついつい、後頭部から
「あんたねぇ、子供たちの前で、なんてことするんですか」
マヒナはたっぷり30秒は騎士のくちびるを吸っていただろうか。あんな
一方、マヒナに口内を
「あ、あのぉ~、だ、大丈夫ですか?」
オレが尋ねると、なぜかマヒナが得意げに答えた。
「陛下! ご心配には及びませぬ! 我が
すると、はらはらと泣きはらしていた騎士が、
「違う……」
と呟く。
オレは騎士の傍らにしゃがみ、手を差し伸べた。
「違う? どう違うのですか?」
騎士は、よく見ればまだ幼い──15~6歳ほどだろう。
鎧でよく見えなかったが、その四肢や首筋は思いのほか
オレの差し伸べた手を払い、騎士が話しはじめる。
「……お前だって、知ってるだろう? ボクら、聖騎士は、神との契約によって戦う力を得るんだ。日々の祈りを欠かさないだとか、毎年10人の異教者を改宗させるだとか。そうした契約をまっとうすることで、神は、お前ら魔族とも対等に戦いうる力を与えてくださる」
「ほほう。それが、マヒナの
「うっ……」
すると、騎士は何か言いにくいことでも言うように言葉を詰まらせた。
「あぁ、何か、秘密に関わることなのでしたら、無理にはお聞きしませんが」
「いや、その……、ボクが神に誓ったのは……、つまり、“女断ち”だったんだよ。おっ、女なんて、あんなふしだらな……。ちょ、ちょっと村に若い男が少ないからって、さ、散々もてあそびやがって。ね、姉ちゃんたちだって、ま、毎日のように、裸で──。だ、だから聖騎士になって、女に惑わされない
なんとなく、話が見えてきた。
「じゃ、もしかして、さっきのあれで?」
「ああ。さっきの、──せ、
すると、なぜかマヒナが焦ったように話に割り込んでくる。
「へ、陛下! お聞きください!
騎士も負けじと声を張り上げた。
「ハン! 性魔なぞ、本来ならば聖騎士の足元にも及ばぬ下級の魔族。確かにボクは未熟だったが、一人前の聖騎士なら、お前なんかに負けやしない。だからこそ、
「な、なにを言う! こ、こういう需要もあるのだっ!」
その言葉とは裏腹に、マヒナが二の腕で、さりげなく胸を寄せて大きくしているのをオレは見逃さなかった。
そのやりとりを見ていたら、
「はぁ──」
っと、思わず、深々とため息が口をついて出る。
「あの、騎士さん? なんとお呼びすれば良いでしょうか」
「……キースペリ」
「では、キースペリさん。今回は不幸な行き違いでこのようなことになってしまいましたが、こちらとしましては、あなたの国と戦いを起こすつもりなどなく、平和に事を運びたいと思っております。お城の塔を壊してしまったのは謝ります。あれは、不幸な事故でして。なので、その旨を、帰ってお伝えいただけないかと──」
「へ、陛下! 魔族の王たるお方が、何たる弱腰! 聖王国のやつらなど、皆殺しにしてしまえばよいのです!」
オレが話しているのに、またもマヒナが話に割り込んでややこしくする。
「……あの、色々言いたいことはありますけど、とりあえず、その“陛下”っての、やめてもらえますか」
「何を仰います。このマヒナ、そして、全魔族にとって、その身と忠誠を捧ぐべき魔王陛下はただおひとり。貴人を直接呼ばわるははばかられ、そのお足元、
──この言葉、ちょっと気になった。さっきは、「
「じゃ、とりあえず、オレはマヒナさんの上司で、マヒナさんはオレの部下ってことで、それでいいんだな?」
「む、無論にございます! そのように仰っていただけるなど、このマヒナ、光栄の至り──」
っと、その言葉を
「よォシ、分かった! マヒナ! まず、お前は子供たちの前で、さっきの
そう、宣言する。
社会人として、初対面の人に失礼があってはいけないと、さっきからそのように対応していたが──、部下となれば話は別だ。
「!」
つい、今までの
「ま、魔族の王──ま、魔王が降臨したというのか……。さ、先ほどの閃光も、あれは、キ、キサマの仕業だと……? あ、あれほどまでの力、見たことも──」
「あ、あぁ、いや、キースペリさん。我々は決して、
なんとか説得しようと、務めて優しく話しかける。
だが、キースペリはオレの言葉など聞こえていないように叫んだ。
「フ、フハハ! ボクが力を失ったのも、何かの導きだったのかもな! これで、王都の大聖堂に並ぶ、ボクの契約の
「んんっ、ちょ、ちょっとそれはマズいと言いますかですね。上司のかたにご連絡いただいて、お取次ぎいただけないかと思うのですが」
「もう遅い! 今日よりお前らに、
それから、キースペリは剣を杖にしてよろよろと立ちあがり、その剣を肩に乗せて構えた。
「ボクだって聖騎士だ! 例え、この身が果てようとも、魔族には屈せぬ! 魔王に一矢報い、そして死んでいくのも一興! 我が最期の一撃、受けてみよ──ッ!」
っと。
剣が重いのか、全身を使ってよいっしょっと剣を持ち上げ、へろへろ~っと剣が振り下ろされる。こんなもん、避けてしまえばそれで済むのだが──
どかん!
と、大きな音がして、目を開けると、騎士の鎧に大穴が開いていた。
「父ちゃん! こいつてきだな?! おれがたすける!」
──ああ、幸四郎。お前もか。
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