湖畔での戦い
「うっ、いててて……。ハムゴロー、大丈夫か?」
「チィ」
と、ハムゴローが元気に顔を出す。
マヒナが言うにはポシェットの中は完全なる異空間になっていて、潰れようが斬られようが中にいる限りは安全とのことだったが……。まぁ、例のポケットみたいなもんか。
ハムゴローをポシェットの中に戻し、立ち上がる。
両脚に力を込め、突進。
途中、ハルバードを持った騎士たちが行く手を遮るが、素早く間合いの内側に入り込み、なるべく傷を負わせないように下から上へ持ち上げるようなタックルで全員弾き飛ばす。
バイストが獣じみた顔で両拳を地面につき吼えた。
「ぐるるるああああっ!」
「くっそ! 化けモンかよ!」
オレはそのままの勢いで跳び蹴り。
しかし、バイストに脚をつかまれ、地面に叩きつけられる。
「げふっ!」
と、全身を伸ばしてバイストを蹴りあげ、拘束から逃れる。立ち上がり、ボディに一発ぶちこんだ。が、バイストはオレの両肩をつかみ、頭突きをかましてきた。
「ってぇ! かぶとかぶってんだぞ、こっちは! なんつう石頭だ」
体を深く沈め、バイストの間合いの内側に入り、わき腹に肘鉄。そのまま、太ももの筋力だけに任せ、ゼロ距離からのタックルを見舞う。バイストの巨体がふわっと浮き上がり、がら空きになったボディへ怒涛のラッシュを叩き込んだ。
「ガ、アッ!」
──すると、その時だ。上空から、聞こえてはいけない声が聞こえた。
「パパ~! みんな~! 戦うのやめて~!」
お城でじっとしていなさいって言ったのに! と、魔導砲撃隊が氷燦名の姿を認めたようだ。あちらに向けて構えを取ったのが見える。
(まずい……!)
オレは砲撃隊へと全力で向かう。が、シャンヴィロンやその他の騎士たちが、オレの行く手をまたしても遮った。
「くそっ、どいてくれ……!」
怪我をさせないように、などと考えている余裕はない。騎士たちを蹴り飛ばし、殴り飛ばし、──シャンヴィロンに全身を切り刻まれながら、オレは前進した。
ふと、右脚に重みを感じる。バイストだ。両脚を刈られていたら、ぶっ倒れているところだった。
「放せ! 放せよ!」
オレの右脚をつかむバイストの腕を、ひたすら踏みつける。
だが、血走った目をしたバイストは一向に放す気配がない。思いっきりあごを蹴り上げて、沈黙させる。
瞬間、わき腹に今までとは比べ物にならない衝撃と痛みが走った。シャンヴィロンだ。氷燦名の氷を削った、あのロケットみたいな突進を、もろにわき腹に喰らったらしい。本来、穴が開いてはいけないところに穴が開く。
「んがあっ!」
短刀を抜くのに手こずっていたシャンヴィロンの頭部に、真上からの肘鉄。そのまま蹴り飛ばすと、短刀と一緒に、わき腹から生気も抜けていく感覚がした。
「ぐ、ぬう……」
よろよろになりながら、魔導砲撃隊のもとにたどり着き、やたらめったら両腕を振り回した。オレの腕に触れた魔法使いたちがドミノのように倒れていく。
と、背後から両腕ごと万力のような力で締め付けられた。
「不死身かよ!?」
かかとでがんがんバイストの足を踏みつけるが、効果はない。バイストは野獣の咆哮──と、同時にオレを湖のほうに投げ飛ばした!
「や、やばい!」
まるで鳥にでもなったかと思うほどの滞空。数百メートルを一瞬で飛翔し、眼下には湖面が迫っていた。
「ハムゴロー! オレを飛ばしてくれ!」
湖に突っ込む寸前、空中でオレの体は静止する。そのまま、子供たちのもとへ戻ろうとするが──、遅い。ふよふよ、といった程度の速度しか出ないことに、焦りと苛立ちを覚える。
遠くで、魔導砲撃隊の放つ閃光が氷燦名の乗る円盤を襲ったのが見えた。先ほどよりはかなり小さな閃光だったが、かすっただけで氷燦名の円盤は消滅。子供たちは茂みの上へ投げ出された。
「氷燦名! 幸四郎!」
だが、オレの叫びも空しく、氷燦名たちが落ちたあたりの茂みに、騎士たちが殺到するのが見えた。
「ハム! ここでいい、落とせ!」
瞬間、重力が復活。オレは巨大湖へとダイブした。
上空から落ちた勢いで、かなりの深さまで沈みながら──、オレは両手にアメナメタのパワーを集めている。気を抜けばカッ飛んでいきそうになる奔馬のごときエネルギーを逃がさないように握りしめ、オレは胸を大きく開いた。
そして──、両拳同士を思いっきり打ち合わせる。
どん!
湖底に、機雷の爆発にも似た激震が走った。
爆発によって、さらに深くへと強制的に沈んでいくさなか、オレはハムゴローに合図をして湖底を脱出。水上へと浮かび上がる。
湖底での爆発は、水面に荒れ狂う高波を生じさせていた。
大波が、平野にいた騎士たちを洗い流してゆく。子供たちに到達する直前、氷の球体が子供たちを包み込んだのが見えた。
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