第8話

 それまで毎月1回は病院で検査をしていたのですが、ここにきて急速に悪化。入院が決定です。

 受験終わってからじゃダメ? と担当医に訊きましたが、そんな事言ってる場合じゃないらしい。

 帰宅して親に報告。その夜のうちに家族会議です。

 妹が「お兄ちゃん死んじゃうの?」と目をキラキラさせながら口にしたのをハッキリ覚えてます。悪かったな期待にそえなくて。


 とりあえず、医師と交渉の結果、次の佐藤忠志先生の講義を受けてから入院することになりました。

 佐藤忠志先生の講義は、他の英語講師たちの嫉妬にまみれたネガティブキャンペーンにも負けず(実際講義中にクソミソに言うんだこれが)、講義開始2時間前から列ができます。その待機中の列の中で、自分が来週から入院して受講できないことと、誰か講義をテープに録音してくれないかと、大声でお願いしました。いや、親切な人はいるものです。申し訳ありません、お名前は失念してしまいましたが、本当に助かりました。ありがとうございます。


 この時期、親には減らず口たたいて看護婦さんたちにも軽口たたいていたけど、実のところ内心哀しくて心細くて悔しくて、入院中の消灯後のベッドの上では、いつも独り泣いてました。自分の病弱さが足をひっぱる、いつまでそんな状況が続くのだろう。今後何かやりたい事、やるべき事が出てきても、また病弱さ故に挫折してしまうのか。こんなことがずっと続くのか。


 そんな中、一つの希望としてあったのが、「帝都物語」で登場した大蔵省官僚平岡公威ひらおかきみたけ、後の三島由紀夫の存在でした。思想とか作品とか関係なく、「あの時期に兵役にも弾かれるような貧弱な身体なのに、30歳過ぎてから一念発起してボディビルをはじめ、やがて空手だの剣道だのボクシングだのを始め、ついには私設軍隊まで作ってしまう」という部分に惹かれたわけです。身体が弱い人ならわかると思います。10代の学生時代、体育の授業や部活動などで健康な肢体を爆発させていた学友たちを、横目で見ながら自分とは無縁な世界だと諦めたり鬱々としていた気持ちを。でも学校というかせを外せば、誰にも邪魔されず自分のペースで強くなれるのではないか。そんな妄想の具体的な回答として、三島由紀夫は赫奕かくやくと現れてきたのです。

 大学に受かろう。そして、この弱い身体をなんとかしよう、そうベッドの上で思いながら、1987年のクリスマスまで入院を続けます。


 この年、世界はゆっくりと動いていきます。

 岡田斗司夫たちを最初に取り上げた雑誌「アニメック」が休刊し、DAICONフィルムはガイナックスへと進化し、「オネアミスの翼」が公開されます。

「うる星やつら」と「めぞん一刻」の連載が終了し、「らんま1/2」の連載が始まります。

「帝都物語」が日本SF大賞を受賞し、翌年には映画が公開されます。

 そしてこの年の末、本格的に中国拳法を扱うマンガ「拳児」の連載が始まるのです。

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