第5話
しかしこいつどーしよーもねーな、と、書いてる自分がそう思ってきました。
すみません、まだ空手始めません。
もうしばらくオタク話につきあって下さい。
* * *
1986年から浪人して代ゼミに通ってたわけですが、出席のカード通したら地下の休憩室で紙コップのコーヒー飲んで自習して、その後は新宿の紀伊国屋本店で立ち読みにいそしむという、ふざけた日々を送ってました。父ちゃん母ちゃんゴメンナサイ。
ある日、いつものように紀伊国屋に向かった時のこと。
新宿の紀伊国屋本店は4階から上に行くエスカレーターが無く、エレベータか階段で登るしかない。そんなわけで階段を上ろうとしたところ、上から黒いマントをまとった長身の老人が降りてきました。
コツ、コツ、コツ、と、靴音を響かせて階段を降りていくマントの老人。
私は驚きのあまり金縛りにあったかのようにその場に動けなくなり、唯一動く目玉だけが老人の姿を追っていました。
自分の目の前数十センチの距離を、死神博士が歩いていれば、誰もがそうなります。しかも番組の衣装そのままで。
正確には「星雲仮面マシンマン」のプロフェッサーKの衣装ですが、あれ自前だったんですね。
とにかく、たっぷり1分近く金縛り状態でしたが、なんとか足を床から引っぺがし、階段を駆け下りました。追わなきゃ。でも追ってどうする? いやとにかく追わなきゃ!
1階まで降りて新宿通りを見渡す。見当たらない。雑踏にまぎれたのか? それとも他の階にいるのか? いや地下道だと判断、すぐに地下道に降りる。
いた! 地下道を新宿駅方向へ歩くマント姿!
いたけど、どうする? 何て言って声をかければいいんだ?
とにかく近づいて、当時の私としては蛮勇をふるって声をかけました。
「あの……すみません……」
不機嫌そうにふり向く死神博士。そりゃそうだよね。
「あの……天本英世先生ですか?」
すると、死神博士はフッと笑って
「僕は先生なんかじゃないよ……」
そういってまたフフッと笑い、新宿駅方向へ歩き去っていきました。
私はただただ呆然と立ち尽くして見送ることしかできませんでした。
後日、紀伊国屋本店で「天本英世が選ぶスペインの本」なるフェアが開催されました。なるほど、このために紀伊国屋に来ていたのか。
その中に、天本英世ご自身の著書「スペイン巡礼」と「スペイン回想」の2作が入っていて、しかもサイン本!
「スペイン巡礼」だけ買って帰りました。これは私の宝物であります。
また、「天本英世と行くスペイン・ロルカの旅」と書かれた旅行ツアーパンフも、たしか新宿駅で入手しました。こよなくスペインを愛しロルカの詩を朗読することで有名だった天本英世にしかできない旅行企画でした。大学受かれば時間自由に作れるから、このツアーにも参加できる。その認識はかなりの励みになりました。(鼻先にぶらさげるニンジンが無い限り走らないという認識はこの頃からありました)
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