エンディングからはじまるプロローグ



 前回までのあらすじ…………


 ◆悲しき没キャラ、サルダンを倒した勇人たちは五人目のヒロイン、エリザの邸宅に招待される。そこに待ち受けていたのは前期ラスボスの魔王バーンと怒り心頭のアルシアだった。


『一発くらいじゃ足りないくらいよ。バカ勇人……!』


 アルシアのビンタを受けた勇人はある意味、真のラスボスと対峙するのだった……!






《エンディングからはじまる

 プロローグ》(CV:勇人の中の人)










「さて。役者が揃ったところで、存分に話し合ってくれますかしら? 勇人、アルシア」


「アルシア、勇人が変な事言ったら私が絞めてあげるから安心して」


「あ、うん。……お手柔らかにね?

 リタ」



 テーブル越しに向かい合うアルシアと勇人。それぞれに応援するヒロインの姿がある。



「こうしてみんなでお話しするのも久し振りですね? 何をお話ししますか?」


「そうだな、マリーナ。……出来れば平和な話題がよかったな……」



「大丈夫です、勇人さん。他に誰も味方しなくても、私がついてますから」



 アルシア側にはリタとエリザ、勇人側にはセリカと若干微妙なところでマリーナ。


 一組のカップルの行く末を占う最終決戦が今、幕を開けようとしていた……!




「アルシア。折角の機会です、言いたい事があれば言っておやりなさい」


「言いたい事って……」


「勇人のダメな所とか、勇人の嫌いな所とか。遠慮なく言うと良いわ」



「それを聞かされる俺はどうしたもんかなぁ……」


 ギン! リタとエリザの瞳がビーム張りに鋭く勇人に突き刺さる……!


「……冗談だよ……」



「そうね…………今まで、余り言い出せなかったけど……」


「なんだよ。不平不満ならこっちにもあるぞ(主に今)」



「いや、そうじゃ無くてね。


 勇人、私実は……婚約はするべきじゃなかったと思ってるの」







「「「「!!」」」」



「……?」








 戦慄が走る。余りに唐突な最後通帳に場の空気が凍り付く。勇人含め、ヒロインたちの表情が固まる中、


「え? 勇人とアルシアさんって婚約してたんですか?」


 事情をよく知らないマリーナは一人首を傾げていた……。







「……………………は?

 アルシア? お前、本気で」


「……あ、いや。違う、けど。

 ……その」




「??? へ、え? これって一体?」


 限りなくシリアスな空気の中、戸惑うマリーナをセリカたちが部屋の隅に避難させ、ヒソヒソ声で事情を説明し始めた。



「……マリーナ、知らないんですの?

 ハヤトとアルシアは婚約をしていることを?」


「……そうでしたか?」


「……手紙で来たじゃない、

 読んでないの?」


「……手紙? そんなの、

 いつ来ましたっけ」


「……今から二ヶ月くらい前ですよ。関係者宛てに一斉に来たじゃないですか」


「……二ヶ月前?

 ああ、丁度レクスお兄様を探し始めた頃でしたから家に居ませんでしたね! 私、手紙を見ていません!」





「「「…………………………」」」





 セリカたちが脱力し切っている頃、肝心の勇人とアルシアは。



「アルシア、お前……婚約を決めた時、あんなに嬉しそうだったじゃないか。あれは嘘、だったのか」


「嘘、って訳じゃ無いけど。あの時は本当に嬉しかったし、一緒に暮らし始めてからも楽しかった」


「なら、何で」


「……勇人がこの世界に来てから私たちの中では一番付き合いが長いけど、

 けど。私、勇人の事を余り良く知らなかったんだなって」


「…………」


「勇人のこの世界に来る前の生活もまるで知らないし、私が知らない勇人の部分とか、悪い所とか。

 一人じゃロクに家事も出来ない所とか、放っておくと風呂にも入らない所とか、他にも色々。けど、一番は」



 そこに一通り説明を終えたセリカたちが戻ってくる。アルシアは哀しく微笑って。


「勇人は、

 本当に私を好きなのかなって」


「それは……」



「いいの。わかってたから。勇人が女の子にモテるのも、本当は自分から婚約の話をしたんじゃ無いのも、勇人がこの世界の住人じゃ無いって事も」



「……ああ。その通りだ」


「だからね、毎日ケンカばかりだし、周りを安心させる為の婚約だったし、勇人をこれ以上この世界に引き留める訳にも行かないし。だから、婚約は……」



「アルシア、本気ですの」


「うん、エリザ。迷惑掛けちゃったね」


「この馬鹿なんかに遠慮する事なんて無いわよ。あなたは……」


「ありがとリタ。でも、こればっかりはどうしようもないから……」


「ええ、せっかく婚約までしたのに……こんな終わり方、嫌じゃないですか?」


「でもマリーナ。その方がお互いの為だから……」


「お互いの為、か……」







「止めて下さい!

 勇人さん、アルシアさん!」


 張り叫ぶ様なセリカの声が空気を割った。



「二人とも、何でこんな終わり方をしようとしてるんですかっ!? お互いに好きで婚約をしたんでしょう?


 なら何でお互いの為だなんてそんなおかしい事を言えるんですかっ!!」





「セリカ…………お前」


「そんな、そんなこと。……だって」



「勇人さん、アルシアさん。こんな終わり方じゃ駄目ですよ。せめて、お二人が納得出来る選択をしてください。


 私も、みんなもお二人の事は好き、なんですから」




「セリカ、あなた」



「……わかった。俺は…………」




















 数週間後。



「ふぅ、ようやく店も落ち着きましたね」



 セカン王国都内、バイト先のカフェのテーブルを拭き終えセリカは青空を見上げつつ息を吐いた。衣装はセリカの初登場時と同じく黒と白のメイド服だ。(アニメ3話、原作一巻)




(あれから、数週間が過ぎました。マリーナさんはあの後、またレクスさんを捜して一人旅に出て、マリーナさんを捜す執事のカナンさんと入れ違いになって大変だとか。レクスさんも依然として行方不明だそうです)




 表通りには人の流れがあり、足早に行き先を急いでいた。






(リタさんもまたあちこちに行く様になって、時々、出没する強力な魔物を倒して回って居るとか。たまにリタさんの話題が入ってくるので聞くたびに驚いて、安心しています)






 店内にはカウンターに客が一人と他の従業員は少なく、休憩時なのか店は閑かだった。







(エリザさんはお父さんであるバーンさんと相変わらず暮らしていて、時々縁談のお話しもバーンさんからあるみたいですが、それをお気に召さないのか全て断っているそうです。エリザさん曰く、『ハヤト程の、それこそ世界を救える程の殿方でなければ結婚などあり得ませんわ』……みたいです)






 栗色の下げ髪が風に揺れる。不意に照る日差しにセリカは目を細める。








(そして、勇人さんとアルシアさんはと言うと。婚約自体は解消せず、一度お互いを見つめ直す事にしたそうです。


 ただ、その先どうなるかはお互い次第で、勇人さんが本当に好きな人と結ばれる様に誰と一緒になるかも勇人さんが決める事になりました。


 今は、アルシアさんは故郷のファストの町に居て、勇人さんは一度旅に出る事になったそうです。


 ……今は離れる事になっても、別れる事にならなくて本当に良かった、気がします)








 店の扉が開いて呼び鈴が鳴る。一人の客が店の中へ入る。



「すみません、空いてますか」


「はーい、只今!」


「……あれ、セリカ?」


「勇人さん?」




 店に入ったのは勇人だった。剣を背負い本編馴染みの旅の衣装を着ている。



「ここで働いてたのか?

 知らなかった」


「勇人さん。席はどこも空いてますから、好きな所に座って下さいね」


「じゃ、そこのテーブル席で」






 クロス・オーバー!


 ……それはよくあるハーレムモノの作品であり、既に物語は完結している。


 しかし、そこに生きる人々の物語はこれからも続いていく。









(私も、頑張らないとな……)



「ん? どうしたセリカ。ボーッとこっちを見て」


「いえ、何でもありません。勇人さん、注文は何にしますか?」


「えーと。

 じゃ、トーストとコーヒーで」




「はい! かしこまりました!」



 セリカは満面の笑みを浮かべて勇人に応えた。











 クロス・オーバー! アフター!? 完

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