悲しいけどこれ、プロットの都合なのよね



 十分後。









「な……馬鹿な、全滅だと」


「これで最後? 割と呆気ないものね」

「一度倒した事のある魔物ばかりでしたし、楽勝でしたねリタさん」

「て言うか復活した敵とかって盛大な負けフラグだよな」



 勇人一行の周りには倒された魔物が一面に転がっている。実は七割方はリタが倒したものだったりする。


 古今、特撮や映像作品に於いて復活した敵は割とすぐに倒される宿命なのだ。



「ぐぬぬ……おのれ、こうなれば」


「やめてください!」


「止めるなマリーナ! 邪魔をするのなら、お前とて容赦はせんぞ」


「いいえ。ドロテアさん……こんな事、したって何にもなりません! 私、分かってます。ドロテアさんが本当は良い人なんだって」


「っ、此の期に及んで何を……」


「だって、道に迷っていた私を助けてくれましたし、美味しいケーキを沢山食べさせて貰ったし、そして何より、私が初めてタイラントオーガを召喚出来た時にはあんなに喜んでくれたじゃないですか!」



「……え?

 この間のタイラントオーガってマリーナが召喚したやつだったの……?

 マジで?」


「全ては勇者ハヤトを倒す為だ。道に迷っていたのを助けたのも、たらふくケーキを食べさせたのも、召喚術を仕込んだのも、全てお前を利用する為なのだマリーナ」


「嘘です! そんなの、認めません!」


「いや、だから……」


「私の知っているドロテアさんはそんな事をする人じゃありません! もし、まだ邪神ジャークに操られて居るのなら……私が貴方を救ってみせます!」




「………………。まぁ、いい。

 邪魔をするのなら勇者ハヤトごと私の合体魔物で蹴散らしてくれる!」


「合体魔物だって!?」


「見てください、勇人さん!

 周りの魔物たちが!」


 魔物たちの体が操られる様に宙に浮き、その体が黒い光に包まれていく。

「見るが良い、勇者ハヤト! これが究極の合体魔物、『グランザーク』だッッッ!」



 ドロテアが杖を掲げると黒い光となった魔物たちが一つに集まり、巨大なシルエットに変貌していく。


 黒い光は巨躯となり、爪を、牙を、凶々しい翼を広げる。四本の腕と脚は野太く、それぞれが形が歪に異なる。黒い光が飛び散り、その姿を大地に顕現させた。



「ググガアアアアァァァァッッッ!!」



 大地、大気、空間が激動する。幾つもの魔物を組み合わせた醜悪な魔物が叫びを上げる。ケンタウロス形の獣とも竜とも悪魔ともつかない魔物は、継接ぎの如き十メートルは有ろうかその巨躯を勇人一行と対峙させる。



「っ、凄い圧力……。もしかしたら魔王バーンと同等かそれ以上かもしれないわね……!」


 前期ラスボスの魔王バーン(アニメ12話、原作5巻)に勝るとも劣らない圧力を前にリタは冷や汗をかいていた。



「あの魔物、色んな魔物のパーツがあります……! 勇人さん気を付けて! どんな攻撃をして来るか分かりませんよ!」


「くそっ、あんなのアリかよ……!」


「ふはははっ! 祈れ! 今日が貴様の命日なのだっ!」



「……勇人お兄様」

 そこに、意を決した表情のマリーナが勇人の側に立っていた。


「マリーナ」

「私を……使って下さい」


「いいのか。アイツ、マリーナと……」


「だからです。だから……私とクロスしてくださいっ!」


「マリーナ……。

 わかった、行こう!」

「はい!」



「……仕方ないわね、

 セリカ! 私たちも行くわよ!」

「はい! リタさん!」



「よし、皆!

 俺に力を貸してくれッ!!」




 勇人の号令と同時にセリカ、マリーナ、リタの三人がそれぞれ魔法の力を開放する。セリカは疾風を、マリーナは大地のエネルギーを、リタは凍て付く冷気をその身に纏う。




「「「「クロス!!!!」」」」



 三人の姫巫女たちの力と想いが勇人に流れ込む。セリカの風が勇人の体を包み、マリーナの大地のエネルギーが勇人の体を充たし、リタの冷気が剣となって勇人を武装させる。



「オーバーーーーーーッッッ!!」



 三つの力と三つの想いを受けて勇者ハヤトは真の力を開放する。世界を救った英雄が今、再びその力を示す……!




「ありがとうセリカ、リタ、マリーナ! お前たちが居れば……

 俺は、負けない!!」



 氷の剣を構え、巨大な魔物に挑む。大地のエネルギーが勇人に無限の力を与え、風の導きが何者よりも疾く勇人を加速させていく!



「うおおおっ!

 必殺ッ、トリプルクロス……ブレェェェェイクッッッ!!」



 三つの力を纏めた氷の剣に全エネルギーを集約させ、大振りに巨大な魔物に振りかざす!! その剣は虹色に輝き魔物の巨躯を光に還していく……!




「グアアア…………ッッッ!」





 その余波は崖の上のドロテアにも届こうとしていた。

「何、……馬鹿なあぁぁぁぁ!!」




 光の奔流は地上の星となって世界を照らしていた。












 それから。



「ドロテアさん……」


 勇人一行の前には御縄に就いたドロテアの姿が。



「なぜ、私は負けたのだ……?」


「それは俺が一人じゃなかったからだ。俺にはセリカにリタ、それにマリーナが付いていた。俺一人じゃ、あんなのには勝てなかったさ」


 と、勇人は言うが尺の都合でもプロットの都合でもあったりする。




「……そうか。だから私は負けたのだな。……もういい。どうでも良くなったから、後は煮るなり焼くなり好きにするがいいさ」


「王国の警備隊には連絡を入れたからじきにお迎えが来るわよ」


「……あ、警備隊が……」


 そこにセカン王国の警備隊が駆け付ける。ドロテアを迎え、連行していく。



「さらばだ、勇者ハヤト。例え私が敗れようとも、第二第三の私が没になった怨みを晴らしにやって来るだろう……」



「待ってください!」


「マリーナか、まだ何か?」



「私、まだドロテアさんからプレミアムベリーベリーショートケーキをご馳走して貰ってません!」



「は!?」


「私、待ってます。ドロテアさんがまた、美味しいケーキをご馳走してくれる日を……何ヶ月でも、何年でも」



「…………くくく、そうか。

 そうか……」




 警備隊に引き連れられてドロテアは歩き始める。

「懐に余裕があれば、な」



「え……?」


 ドロテアは、警備隊に連行されてやがて地平線に消えていく。





「ドロテアさん……」






 見送るマリーナの後ろで勇人たちが息を吐く。



「一件落着、だな」

「とりあえずは、良かったですね勇人さん」


「じゃ。もう良いかしら?」


「何が?」

「アルシアの処へ来て貰うわよ」


「ちょ、ちょっと待て。

 まだ、その、心の準備とか……」


「今までこっちも焦らされたんだから無駄な抵抗はしない!」


「リタさん! 勇人さんも疲れてますし、ここは穏便に……」




 三人が揉み合うなか、一人の宅配員が現れる。

「ちわっす。

 勇者ハヤトさんは居ますか?」


「え、俺だけど」


「郵便物が届いてます。

 こちらにサインを」


「あ、はい?」



 さらさらっとサインを済ますと勇人は手紙を受け取る。手紙を渡すと足早に宅配員は去っていく。




「誰からだ……?」

「ん、この便箋……確かエリザの家のやつじゃない?」

「開けてみましょう、勇人さん」



「おう。…………これは」


「何て書いてあるの?」






『ハヤト。お久しぶりですね。貴方の活躍はこの耳にも届いて居りますわ。それはそうと、貴方に話がある女性が私の邸宅に居ります。アルシアが待ってます、直ぐに私の邸宅へいらっしゃいなさい。


 エリザ』





「アルシアが、

 エリザの所に居る……!」


「エリザ、さん……?」


 セリカはその時、妙にイヤな予感を感じていた……。





 続く。

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