いとも容易く行われるえげつない行為(創作)
「あれ?
もしかして勇人お兄様ですか?」
「ま、マリーナ?
どうしてこんな所に」
勇人一行の前に現れたのは本編三人目のヒロイン、マリーナだった。
ボリュームのある長いピンク髪にはち切れんばかりの巨乳の天然妹系キャラだ。淡いピンクのワンピースに高そうな装飾のある脛当て、手足に色を落とした同色の手袋とパンプス。掌の部分は白くなっている。
街道の外れの道の一角、マリーナは本編と同じくゆるふわした目元を勇人、セリカ、リタの三人に向けている。
「お兄様こそ? こんなところに居るなんて迷子ですか?」
「迷子って……。そういえばマリーナ、まだ勇人の事を『お兄様』なんて呼んでいたの?
……というか、勇人の趣味?」
「ぶっ……! んなワケあるかっ、マリーナがそう呼んでるだけだっ!
誓って俺にそんな趣味は無いっ!」
解説しよう。サード公国で勇人と出会ったマリーナは幼少の頃の行方不明の兄レクスの面影を重ねて勇人を『お兄様』と呼んでいる。(アニメ5話、原作3巻)
本編で色々とあって邪神ジャークの洗脳を解きレクスを解放した後も親愛を込めて勇人をお兄様と呼んでいた。(アニメ23話、原作9巻)因みにレクスは勇人とは似ても似つかないブロンド髪のイケメンだったりする。
「そんなことより、マリーナさん。この間カナンさんが捜してましたよ。そっちは大丈夫なんですか?」
「……カナン?
そうだ、忘れてました! 私、カナンの事を捜していたんでしたね」
「え、何。って事はどっちも捜していて両方すれ違ってる? ややこし……。
というかセリカ、軽く流さないでくれるか」
「で。マリーナ、アンタなんだってこんな場所に居るのよ?
アルシアにも聞いたけど家に帰って無いんだって? どうしたの」
「リタさん……実は。邪神ジャークとの決戦の後、一緒に実家に帰ったのですが。
ある日、理由も告げずに家を出て行ってしまって。置き手紙もありませんでしたから私もレクスお兄様を追って旅に出たのですが、
……手掛かりもありませんし、困り果てていたんです」
「……、つまり。
レクスをマリーナが捜して、そのマリーナをカナンが捜して……で、マリーナは迷ってこんな所にか?」
「はい! その通りです、勇人お兄様!」
「「「………………………………」」」
「……コントみたいだ」
「ですね、
さすがマリーナさんです……」
「マリーナの一族ってみんなこうなのかしら……」
「? どうかしましたか」
「よし、マリーナ。一旦家帰ろうか。
そうすれば少しは事態が好転する」
「そうでした! 私、勇人さんに用事があったんでした!」
「へ? どうした急に、マリーナ?」
「実は、勇人お兄様に会いたいって人が居て、その人に勇人さんを捜して欲しいって頼まれたんでした!」
がしっ。
勇人の手を両手で掴むマリーナ。
「ちょ、マリーナ」
「行きましょう勇人お兄様。
こっちです!」
「待てって、ちょ、……痛てててててっ、痛いって! 力、強……!?」
ずるずる引きずられて連行されていく勇人。笑顔のままマリーナは林の向こうへ向かっていく。
「なんか、相変わらずですね。
マリーナさん」
「ええ、元気そうでよかったわ……」
そんな光景をセリカとリタはボー然と見ていた。
んでもって。
「さ、着きましたわ。勇人お兄様」
着いたのは三方を崖に囲まれた荒地。五メートルから十メートルほどはある崖が勇人の前にそびえ立つ。遅れてセリカとリタも追い付いた。
「なんだここ? つーか誰もいないみたいだが」
「あれ? おかしいですねぇ、ここに来て欲しいってドロテアさんが……」
と、その時。
「ガアアァァァァ!」
崖の上から一体、また一体と本編で現れた魔物が叫びを上げて現れた!
「ま、魔物か!?」
「クハハハハハッ! この時を待っていたぞ、勇者ハヤト!!」
「なんですか!?
この陰湿な高笑いは!」
「あれ! 崖の上よ!」
リタが指差す先には黒いマントを靡かせ片手に髑髏を象った杖を持った二十代後半らしき男が爆笑していた。
「だ、……誰だ」
「まさか、そんなっ、
ドロテアさん!?」
一同はこう思う。
(((……誰?)))
「その通りだ姫巫女マリーナよ。そして、姫巫女セリカ、姫巫女リタまで連れてきてくれるなんて素晴らしい働きだ。褒美に後でスペシャルベリーベリーショートケーキを奢ってやろう」
「スペシャル……! いえ。それよりドロテアさん、なんでこんな事をするんですかっ! あんなに私に優しくしてくれたじゃ無いですか!?」
「ふん。それも全ては勇者ハヤトを倒す為だ。目的の為ならば手段は選ばん!」
「そんなっ、ドロテアさん!」
「……あのー? 盛り上がってるところ済まないが、俺たちにも分かる様に説明してくんないかマリーナ?」
「え? だから、ドロテアさんですよドロテアさん」
「ドロテアなんて名前、初めて聞きましたよ? 誰なんですか」
「それに、ドロテアなんて教団幹部には居なかったじゃないの?」
「そうでしたっけ? ……あーそう言えばそうでしたね! 忘れてました」
「ぐぬぬ……黙って居れば好き勝手言いやがって……! 全ては貴様の所為なんだ、勇者ハヤト!」
「え、俺!?」
「貴様さえ居なければ、邪神ジャーク様が倒される事も、
世界征服の野望が潰える事も、
レクスとかいう奴が台頭し俺が教団の幹部になり損ねたのも、
重要な仕事を任されず裏方の仕事ばかりだったのも、
アニメどころか原作の出番すら無いのも、
全ては貴様の所為なんだ勇者ハヤト!」
「って、後半俺関係無いよね!?」
解説せねばなるまい。彼はドロテア。企画段階では三幹部の一人に挙げられて居たが、彼より余程イケメンで重要な立ち位置にあるレクスが三幹部の一人に挙がった為、没となってしまったキャラクターである……。
原作はおろかアニメですら出番も無く、名前と設定のみが残る悲劇の没キャラなのだ。
「というか、完全に私怨ですよね」
「レクスに幹部の地位を取られたんなら、なんでそっちに行かないのよ捜して怨みを晴らせばいいじゃない」
「当然捜したさ。
だがな、何処を捜しても全然見つからないのだっ!
何ヶ月も捜したが結局見つからずにいた時、俺はある事に気が付いた。
そう、何処に居るか分からん奴を捜すより、何処に居るか分かる奴を叩けばいいと!
それはつまり、諸悪の根源である勇者ハヤト! 貴様なのだ!」
「だから俺、全然関係無いよね!?」
「黙れっ! そもそも貴様がこのマーニウス・エールに召喚されなければ、こんな事にはならなかったのだ」
「逆怨みじゃねぇか!」
「だったら私は!? なんで私にプレミアムロールケーキを奢ってくれたり、期間限定季節のストロベリーショートを食べさせてくれたり、高級洋菓子店のチョコレートケーキ1ホールをプレゼントしてくれたんですか?」
「くくく、それはな。
レクスの妹であり、勇者ハヤトの仲間でもあるマリーナ。
貴様を利用する為なのだ!」
「……! そん、な……?」
「というか。餌付けですよね、これ」
「あと、食べ過ぎでしょ明らかに」
「だが、それも今は構わない! 例えケーキ代に懐が圧迫されようとも、全ては勇者ハヤトを倒せば済む事だ」
「くっ、なんだか見ていて痛々しいが、戦うしか無いみたいだな!」
勇人、セリカ、リタは武器を抜いて戦闘態勢を取る。崖の上の魔物達が唸りを上げている。
「ここに集う魔物は全て勇者ハヤト、貴様が倒して来た魔物ばかりだ。
今まで倒されて来た魔物達の無念を……その身に受けるがいい」
ドロテアは髑髏の杖を掲げた。
「行け、魔物ども! 勇者ハヤトにその怨みを晴らすのだ!」
魔物達は一斉に勇人たちに襲い掛かる。魔物達の雪崩は容赦無く勇人たちを襲う……!
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