捜す方には気苦労が絶えない



「うわぁ……

 やっぱここ人多いな……!」



 勇人は街行く人の多さに圧倒された。ここはセカン王国、その城下街。本編でもやたら人通りの多い場所として描かれたセカン王国の首都である。

(アニメ3話、原作1巻)



「勇人さん、大通りはいつもこんな感じですよ」



 セリカは勇人と並び人混みの中を歩いている。勇人とセリカは本編での旅の服装でセカン王城の城下町の石畳の上を行く。


 勇人は青色のボレロジャケットに黒のジーンズ姿、背には剣を背負う。


 セリカは黄色のワンピースから着替え、これまた黄色を基調とした色彩のチュニックと皮の胸当てを合わせた様な袖無しの服にバッグを背負い、ホットパンツにニーソックスの絶対領域を備えた出で立ちだ。



「前にセリカと出会った時は確か、もう少し行った所の路地だったっけ」


「はい。バイト先の花屋さんで勇人さんと会って……それから、でしたね」



 勇人がセリカと出会った経緯をざっくり説明すると店先で勇人がなんやかんやあって結果的にセリカの世話になり、


 すったもんだの末に敵に襲われたセリカを勇人が助け、その時にセリカの姫巫女の素養が覚醒、同時にフラグ成立……と言った感じである。

(アニメ4話、原作2巻)



「だな。まだ一年も経っていないのに、もう二年くらい前に感じるぜ」


「そうですか? 私は三年か四年くらいに感じますけど」



 二人が言っているのはアニメや原作のリアルな方の時間軸である。


 本編の単行本は第1巻から9巻まで三年から四年にかけて刊行し、アニメの方は前期終了後、約一年後に後期が放映された。本編の時間軸的には一年も経ってはいないが、実はそれ以上に時間が掛かっておりそこが微妙に体感時間をおかしくしていたのだ。



「まぁいいや。セリカ、案内頼むぜ。ここ出身だし頼りにしてるぞ」


「はい! 任せてください!」



 セリカは小さな輪郭で溢れるように笑って応えた。純真な彼女の笑顔は五人居るヒロインの中でも随一なのだっ。



「まずは情報集めだな。ここで情報が集まりそうなのは何処だ?」


「そうですね……相手が相手ですからね。悪い魔法使いの情報が集まりそうなのは、酒場、いやでも未成年だし……」


「酒場かぁ、未成年はまずいか。

 法律的に」



 本作、クロス・オーバー!は未成年の飲酒を推奨しない健全なライトノベル及びアニメーションである。


 青少年の健全な育成の観点から飲酒や喫煙などの描写は規制されている。



「仕方ない、手当たり次第探そうか。今までそれで何とかなって来たんだし」


「そうですね、勇人さん。

 行きましょう!」



 そして勇人とセリカはセカン王国を脅かす悪い魔法使いの情報を集め始める。


 様々な人に聞き込みをし、至る所を探し回った。向かいのホーム、路地裏の窓。そんな所に居るはずも無いのに探し続けた。


 数時間にも及ぶ捜査の末、そして。









「全然、見つからねぇ……」

「ですよね……」


 広場のベンチに腰を掛けて項垂れる勇人とセリカ。本編の様に主人公補正お約束物語プロットの都合も無いので捜査は早くも暗礁に乗り上げた。



「なんだよ……旅の時は割とすぐに見つかったじゃんかよぉ……。

 何時間も歩き回ったってのに成果がゼロっておかしくねーか……」


「すみません、せっかく案内したのに力になれなくて……」


「いや、セリカが悪いんじゃないさ。あーもう、こういう時にアルシアでも居ればなぁ……」



 と。自分が吐いたセリフを毛嫌いする様に強く首を横に振る勇人。


 本編ではよく気分が沈んだ勇人をアルシアが叱咤激励して立てていた。

(アニメ6話、原作3巻)



「勇人さん……」


「いや! アルシアの事はどうでもいい! 知るか!

 セリカ、行くぞ。さっさと情報なりを集めないと」



 いきり立って言動を誤魔化すようにまた一人闇雲に探し始める勇人。それをセリカは見つめていた。手当たり次第に声を掛ける勇人を周りの通行人が煙たがっていると、そこに。



「おや、そこに居るのはマリーナ様の……?」


 黒いジャケットを着た黒髪の執事風の男性が勇人の前に現れた。


「ん? あんた、どっかで」


「ああ、確かマリーナさんのところの執事さんでしたっけ?」


「はい、その通りですセリカさま。ご無沙汰しています、マリーナ様の世話係、カナンでございます」



 マリーナの執事カナン。サードの街の令嬢のヒロインの一人マリーナの世話係を務める男性である。


 作中では天然振りを発揮するマリーナを支える縁の下の力持ち的なポジションにいた。旅先ではマリーナの父から命ぜられてマリーナの事を影から見守る羽目になっており、苦労が絶えなかったという。(アニメ7話、原作3巻)



「あれ、確かマリーナの所で働いてたんじゃ?」


「それが、ですね。少しばかり込み入った事情が有りまして。

 ……時に、マリーナ様を見かけませんでしたか?」


「? マリーナさん、ですか。

 見かけませんでしたけど?」


「……そうでしたか。共に旅を続けた貴方がたならばと思ったのですが」


「マリーナさんに何かあったんですか? サードの実家に居るって前に手紙で聞きましたけど」



「はい。実は……邪心ジャークとの決戦の後、マリーナ様は家に戻られたのですが。


 ある日決戦の際に再開された兄君レクス様を追って家を出て行かれてしまわれた」



 ーー『お兄様を探しに行ってまいります。夕食時には帰りますので心配は不要ですよ。マリーナ』



「と、書き置きを残されて出て行かれた。結局、夕食時にも戻らず私がマリーナ様を連れ戻しに行く事になり……

 ようやく追い付いたのですが……」




『私はもう子供じゃあありません!

 せっかくお兄様と再会出来たのに私一人が家で帰りを待っている訳にはいきません!』



「……と、なかなかこちらのお願いも聞き入れて貰えず……。

 そうこうしている内にマリーナ様は何時の間にか何処かへ雲隠れを……。


 そういった経緯で私はマリーナ様を探してこのセカン王国まで足を運んだ次第で」



 勇人とセリカはお互いに怪訝な顔で見合わせている。何故なら限りなくリアルにその場面を想像してしまったからだ。


 三人目のヒロイン、マリーナは箱入りの天然娘である。その天然振りは何もない所で転んだり、ずれた言動で周囲を驚かせたり……と言うより何もない所で勇人たちをずれた言動ですっ転ばせる驚異的な天然さんなのである。


 何もない所でも曰くあり気なトラップに変えてしまう生粋のトラブル製造機。そんな無意識に周りを振り回す彼女はコメディパートの主力と言えた。

(アニメ6話、原作2巻)



「……なるほど、それでか。

 ……大変だな、あんたも」


「はい……。おっといけない、そろそろ行かなければ。マリーナ様を見付けたらお教えください。では」



 踵を返して足早に去っていくカナン。

 その背中は哀愁を帯びていた様な気がした。



「……あっ」


「どうしました? 勇人さん」


「魔法使いの事、聞くの忘れた……」

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