クロスオーバー! アフター!?
緑川 赤城
最終回 俺たちの想い
「グオおおおおおお、馬鹿な……!
この邪神ジャークが人間如きに圧されているだとォ……!」
激しい攻撃の応酬が空を覆う程の大きさの邪神ジャークを怯ませた。
魔法や仲間たちの攻撃、それに死んだと思っていた魔王バーンや洗脳の解けたマリーナの兄の姿もある。曇天の中、空一面に翼を広げる邪神ジャークに対抗してたくさんの魔法船が立ち向かっている。
魔法船の上にはたくさんの魔法使いや旅の途中で出会ったみんなの姿がある。俺は胸が熱くなった。崩れかけの封印の塔で俺の周りを囲んで立っている五人の姫巫女……いや、俺の最高の仲間たちはそれぞれの巫女装束をボロボロにしながらその様子を見ている。
「みんな、チャンスだ! 俺にありったけの力を、体を張ってくれてチャンスを作ってくれたみんなの為にも、俺に力を貸してくれ!」
封印の剣を構えて上空の邪神ジャークを睨む。空一面の竜か鳥の様な奴の体は無数の攻撃の前に怯んでいる。絶対に負ける訳にはいかない、みんなの為にも!
「はい!
セリカは風の魔法を全開にしてボロボロになった巫女装束と茶髪のポニーテールを震わせている。童顔はそのまま、けど強い意志は表情に表れている。けれど強い信頼を感じる。風の魔法は俺の力に反応し一つに交わる。
「大丈夫です。みんなの力があれば、きっと邪神ジャークなんかやっつけちゃいますよ」
マリーナも大地の魔法を全開にして軽くウエーブの掛かったピンク髪と巫女装束でも隠し切れない豊満なバストを靡かせて俺に力を貸してくれる。けれどいつもみたいに綻んだ微笑を浮かべてくれるのでつい俺も口元を緩ませてしまう。
「おのれェェェ……!
クロスなど、させるものかァ!」
邪神ジャークは黒い羽を幾つも飛ばして来た。羽は黒いオーラを纏って凄い勢いで上空から向かって来る! ダメだ、今攻撃されたら……!
「はぁっ!」
黒い羽は上空で凍り付き、撃ち落とされた。見るとリタが上空に銃を構えて羽を撃ち落としていた。
「まったく、しょうがないわね勇人。世界を救うんでしょ?
あんたには色々貸しもあるし、これで一つ帳消しにしてあげるから」
リタは銃を下ろすと後ろ姿でこっちに氷の魔法の力を預けてくれる。あの背中に何度助けられたか。ボロボロの巫女装束のせいでヒップから足のラインが強調されてこそ居るが、銃を構えたブルーの髪の後ろ姿はいつも通りの格好いいリタの姿だった。
「人間如きが、邪魔をするなァァ! ……グおォッ……!」
吠える邪神ジャークを火炎弾が襲う。飛び交う無数の攻撃中でも一際目立つ花火を上げた。
「邪魔なのは貴方です、邪魔ジャーク! お父様を苦しめた罪、決して許しませんわ! 私たちの正義の鉄槌をその身で受けなさい!」
長く優雅なスカートと金の縦巻きロールを巻き上げてエリザは炎の魔法の力を送ってくれる。奴に操られていた魔王バーンの娘の彼女の怒りがこっちにまで伝わって来た。けど、それ以上に強い信頼も流れ込んでくる。余りに強い勢いのせいかスカートが捲れてパンツが見え隠れしてるが、それよりも彼女の信頼の方が嬉しかった。
「……勇人」
「アルシア……」
まるでこの世界に初めて来た時の様におずおずと話し掛けてくるアルシア。みんなの心と魔法が流れ込んで来て居るのに思わずドキリとしてしまう。
「邪神ジャークを倒したら、元の世界に帰っちゃうんだよね。きっと」
アルシアの声はいつもの元気さはなく、いつか、二人で遭難した時の様なしおらしさがあった。近くに見る巫女装束とオレンジ色のセミロングの髪と一本突き出たアホ毛、いつも見慣れた顔は改めてみると小さくて本当に可愛い。
「そうだな……。まだどうなるかはわからない。けど、俺はこの世界、
マーニウス・エールも、この世界の人たちもみんな好きだ。できれば、ずっとここに居たいって思う」
「……あたしだって勇人の事が……」
ぼそりと、アルシアが何か呟いた。
「ん、何か言ったか?」
「な、何でも無いわよ。馬鹿っ」
そういつもの様に俺を馬鹿呼ばわりすると、光の魔法を発動させて俺の心に同調してくる。靡く巫女装束は普段の活発なアルシアと比べると何とも新鮮だった。
「勇人」
「ん?」
「これ終わったら言いたい事あるから」
「なんだよ?」
「なんでもない! 行くわよ、
アルシアの心と光の魔法が流れ込んで来る。アルシアの掛け声を切っ掛けに既に流れ込んだ四人の魔法と心が俺の中で調和して一つになる! 凄い力だ、魔王バーンとの戦いの時は四人分のクロスだったが、今度はそれ以上、いやその十倍のパワーが溢れる……!
「うおおおおぉぉぉぉっ!
みんなの想い、確かに受け取ったぜ! いくぞ! クロス……!」
「「「「「「
オーバーーーーッ!!!!!!
」」」」」」
一つに交差した六つの心が極限を超える……! 俺の魔法、他者の力を媒介に力を高める『オーバー』の力がみんなの想いと力を最強の力に変える。激しくも頼もしい五つの想いが俺に総てを超える力をくれる。
「ば、馬鹿な……! 人間如きがこの邪神ジャークを脅かす力を得るだと……! 有り得ん」
「有り得るんだよ! 俺たち人間の力は重ねる事によってどんな困難だって超えられるんだ! それを知らなかったのがお前の敗因だ、ジャーク!」
「認めるものかァァァァッ!」
邪神ジャークは黒い羽を飛ばして襲い掛かる。だが、これっぽっちも恐怖はない。封印の剣は圧倒的な魔法の力で何倍の大きさの光の剣となり、俺の身体は総てを貫く剣となる。
「うおおおおぉぉぉぉ!」
天に向かって跳ぶ。黒い羽を斬り裂き、一筋の光となって邪神ジャークの巨大な体躯へと向かっていく。
「行って勇人さん!」
「行ってお兄さま!」
「行くのよ!」
「行きなさい!」
「行って、勇人ッ!」
みんなの想いが流れ込んで来る。彼女たちの声援が聞こえるようだ。
「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッ!」
封印の剣が邪神ジャークの胸を貫く。光の剣が確かな手ごたえを感じさせた。
「お、おのれ……人間如きが!
しかし、我は邪神ジャーク。何度滅びようとも何度でも蘇ってくれるわぁぁぁぁ…………!」
時間が止まったかの様な感覚が襲う。次の瞬間、邪神ジャークの巨大な体躯に無数の亀裂が走り、崩壊が始まった。崩れ落ちるジャークの破片は風に吹かれて四散していく。
やがて破片が塵に消えると空を覆っていた雲は晴れて青空が戻って来た。
「やった、倒したぞおぉぉぉぉっ!」
歓声が聞こえる。魔法船に乗ったみんなも喜んでくれているみたいだ。太陽の光と青空をバックに崩れかけの封印の塔に降りるとアルシアたちみんなが駆け寄ってくれた。
「みんな、勝てたぜ」
「馬鹿ぁ!」
と、言ってくるなりアルシアが抱きついてきた!
「わ、何だよ。
褒めてくれたって良いだろう?」
「本当に、馬鹿なんだから。でも、アンタが無事で良かった……」
胸元にすがり付くアルシアは涙ぐんでいる。見ると、他のみんなも何だかんだで心配してくれたようだ。
「アルシア、俺なら大丈夫だって……」
「うっさい! 馬鹿、馬鹿!」
こうして俺はこの世界、
マーニウス・エールを邪神ジャークの脅威から救う事が出来た。俺がこの世界を救えたのも、セリカ、マリーナ、リタ、エリザ、それにアルシア。この世界で出逢った最高の仲間のお陰だ。
俺はこの世界が、この世界で出逢った仲間が好きだ。この世界が、仲間が望む限り、この世界で生き続けようと思う。
クロス・オーバー! 完
……以上がこの物語の顛末である。ライトノベルを原作とする大人気ハーレム系アニメ「クロス・オーバー!」は単行本全9巻、アニメ2期制作で全25話。人気声優を多数キャスティングし、大人気を博した作品である。
この物語は、原作もアニメも完結し、結末を迎えた。が、この世界に住む人々の人生はそこで完結ではない。
ぶっちゃけ続編を控えてたりするのだが、
それはそれとして主人公「
及びヒロイン達の人生はまだまだ続く。これからも大分続く。
これは、原作者も手の届かない幕間の、いや舞台後の物語。
俺たちの戦いは、まだこれからだ!
10週打ち切りも辞さないその後の物語が始まる。
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