夜、いきなり泊まりに誘われた

「ねぇ優香、今日泊まりに来ない?」


 夜、いきなり沙良から電話が来た。もちろんOKだ。私は沙良に着せようと思って買っておいた服を持って、沙良の家に向かった。



「いらっしゃい。……何その荷物?」

「ふっふっふ……じゃじゃーん。どう? これ。可愛いでしょ。沙良に着て欲しくて買っちゃった」


 袋から服を取り出し、沙良に見せつけた。ネットで買った、黒を基調としたドレスだ。沙良の反応は……若干引いてる!?


「ええ……なにそれ……めっちゃゴスロリじゃん……」

「いいからいいから! 似合うと思うんだよねー」

「絶対似合わないと思うんだけど……」

「私よりは似合うよ……」


 自分で一回着てみたが、驚くほど似合わなかった。ま、まあ自分で着るために買ったわけじゃないし良いのだ……


「着るか着ないかはともかく、入ってよ」

「あ、うん。お邪魔しまーす。そういえばなんでいきなり『泊まりに来ない?』とか言ってきたの?」

「今日親が居ないんだよ」

「えっ……誘ってんの」

「違うよ!!!」

「冗談……なんで親が居ないと泊まりに誘うのか分かんないけど……あっ、寂しいのか」

「…………」


 図星……?ふむ。今日は沙良が寂しくないようにしてあげなくては。


 見慣れた沙良の部屋。何も変わってないことに安心しつつ、ドレスを取り出した。


「よし。ではこれを着てください」

「マジで言ってんの……?」

「大マジです。あっ、着替え中はちゃんと外にいるからご心配なく」

「はぁ……しょうがないなあ」

「やった! じゃあ着替え終わったら呼んで」


 数分後。


「着替え終わったよー」


 部屋の中から沙良の声が。私は胸をドキドキさせながらドアを開けた。


「おぉ……」

 思わず感嘆の声が漏れてしまう。小柄な沙良の体躯も相まって、かわいらしい雰囲気を醸し出していた。その中に、神秘的な雰囲気も感じられる。


「ど、どう? なにか言ってよ」

「100点満点で1万点かな」

「まじかー」

「そうだね……例えると……うーん、思いつかない。例えられないほど可愛いってことで」

「なんだそりゃ」


 それにしても、本当にかわいい。過去最高沙良記録だ。なでなでしたくなるし、崇め奉りたくもなる。どうしよう……


「ははぁー、沙良様ぁー」


 迷った結果、崇め奉ることにした。両手を上から振り下ろす動作をしながら、「ははぁー、ははぁー」と繰り返した。 


「えっ何?」

「沙良様が神々しかったので」

「なるほど。私神々しいか」

「はい、沙良様」


 跪いて、よく見る忠誠を誓うポーズをしてみる。


「で、いつまでこれ着てればいいの? 結構暑い……」


 跪いている私を無視してそんなことを聞いてきた。本当はずっと着ていて欲しいぐらいなんだけど、自分で着た時かなり暑かったことを思い出した。


「まぁそれ暑いよね。脱ぐ前に写真取らせてくれない? 超かわいいから」

「ええ、写真はやだなぁ」

「そっか……じゃあしょうがないね。……、よし、目に焼き付けた。もう着替えていいよ」

「おっけー」





 遊んでいると、時間が経つのが早い。不意に沙良が時間に気づいた。

「もう11時だよ」

「まじっ!?」

「もう寝よ、私眠いし」

「えーもっと遊ぼうよー」

「じゃあ優香一人で遊んでて……おやすみ……」

「冷たっ!」


 沙良がベッドに入った。寂しい! 私はまだまだ遊べるのに! そうだ、一緒に寝よう。グッドアイディア。

 ゴソゴソ……沙良のベッドに私も入ろうとする。


「優香、何……? 布団ならそこ入ってるから、自分で出して……って、え!? なに入ってこようとしてんの!? これシングルベッド、わかる!?」

「いいじゃん」

「優香が一緒にいたら眠れなくなっちゃうじゃん!」

「え? それってどういう……」

「あっ、いや、なんでもない」

「ねぇ、なんで眠れなくなるの?」

「なんでもないって! 優香は別の布団で寝てよ! 狭いじゃん!」


 沙良が真っ赤になって、私から顔を背ける。私は沙良のベッドに入り、沙良の背中と密着する。


「入ってこないでよ……」


 弱々しい抵抗の声。私は沙良の方を向き、抱きしめた。沙良の体温が伝わってくる。


「暖かいよ、沙良」

「……」


 沙良は何も抵抗しようとしない。それが沙良の気持ちだと理解した私は、抱きしめていた片手を沙良の頭に持って行き、優しく撫でた。


「私はいつでも沙良のそばにいるから。ずっとね。沙良が寂しくなったら私は沙良のために駆けつけるから」


 沙良が身体をこっちに向けた。相変わらず顔は真っ赤だが……


「優香、ありがとう。私もずっと好きだよ。ちゅっ……」


 沙良がキスしてくれた。沙良からキスしてくれるなんて……今までずっと私からだった気がする。


「ありがと、沙良。一緒に寝ても良い?」

「うん……いいよ。じゃあ、電気消すね」


 部屋の電気が消え、何も見えなくなる。私は沙良の存在を確かに感じるために、沙良と手を繋いだ。


「おやすみ、沙良」

「おやすみ」

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