寒さの中の暖かさ

 11月。季節は秋と冬の境目といったところだ。私と沙良は今日も一緒に登校している。


「寒くなってきたねー」


 沙良はそんなことを言いながら、手をポケットに入れた。もう冬服の季節だ。他の人も、ほとんどが冬服だ。


「そうだね」


 私が沙良の手を握ると、沙良もしっかりと握ってくれた。公道で恋人つなぎはできないが、これでも満足だ。

 しばらく歩いていると、沙良が手を離して自販機の方へ向かった。


「コンポタ買おっと」


 ピッ、ゴトン。

 沙良が買ったのは、暖かいコーンポタージュの飲み物だ。沙良は両手で包み込むようにそれを持っている。


「いいなぁ」

「優香も買えばいいじゃん。はぁ~暖かい」

「お金忘れた……」

「あーあ、どんまい」


 ズズズ……沙良がコンポタを飲む音が聞こえる。暖かそうだ。


「ちょっとちょうだい」

「えー……」

「ちょっとだけ、一口だけだからさ! 寒いんだよー」

「しょうがないなぁ、はい」


 沙良からコンポタの缶を受け取る。暖かい……その暖かさを感じた後、口をつけた。間接キスだ。もらった理由の9割はこれが目的だ。


「ごく、ごく……うん、おいしい! あったかおいしい……あっしい……?」

「変な言葉作ってるし……しかも、一口って言ったのに二口飲んでるし……」

「あっごめん」

「はぁ、まあいいよ」


 缶を沙良に返す。「これで間接キスだね」と言いたい……! でも言ったら確実に変な反応される……我慢だ!


「ごく、ごく……ふぅ。優香、間接キスだとか思ってるんでしょ」


 バレてる――! ここは開き直ってみよう。


「そうだよ、思ってるよ。ひゃっほーい沙良と間接キッスだー」

「っちょっ、声大きい!」

「むぐっ!」


 私の口が押さえられた。沙良は慌てまくっている。


「大きな声出さないでよね」

「ふぅ……」


 開放されて、また学校へ向かう道を歩き出した。右手に沙良の温もりを感じながら。

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