新しい恋のカタチ(百合)
ありりん
2人の関係
あぁ……あの出来事が頭から離れない。一度思い出してしまったら、しばらくこんな調子だ。まさか、友達の沙良――
7月23日。高校に入って最初の終業式の日だ。明日から夏休みということもあり、朝の教室はざわついていた。そのざわついた教室の中で、数カ月前にあった出来事を思い出して……悶えて声を上げたいような気分になっていた。周りに人がいなかったら、「うっひょぉぉぉぉ」などと口走っていたかもしれない。
「ねぇー優香。明日早速プール行かない?」
「わっ! びっくりした……沙良、いきなり話しかけてこないでよ」
考えていた相手がいきなり話しかけてきて、体が跳ねてしまう。うぅ、この顔を見ただけで顔が熱くなる……この人は上之園沙良。私の小学校からの幼なじみだ。プールか……誘ってきた相手が沙良じゃなかったら断っていたかもしれない。でも……
「しょうがないなぁ、いいよ、ついていってあげる。他に誰が来るの?」
「いやー、その、二人だけ」
「二人だけ?」
あんなことがあってから二人だけで出かけるなんて……まるでデートじゃないか! などと変なことを考える頭を抑える。何かあるのかな? それともただ単に少人数で遊びたかっただけ? うーん。
「何かあるの? まあいいか。うん、明日ね」
「後で詳しく連絡するわー」
……
7月24日。沙良に言われた時間に公園に集合。私が丁度の時間に公園に着くと、すでに沙良は待っていた。こんな暑い中、待ち合わせ時間より前に来るとは。
「沙良が遅れて来ないなんて……明日は台風かな」
「私そんなに遅刻しないから!」
「3回に1回ぐらいね」
「うっ……まあいろいろあって……」
「あっ、バス来たよ。こんなギリギリの時間に待ち合わせって、さすが沙良だね」
「いやー、それほどでも」
「次は~、新照院プール前~、新照院プール前~」
「ほら、沙良! 寝てないで! 次で降りるよ!」
「う~ん……もう着いたのかぁ……」
バスに乗るとすぐ、沙良は眠り始めた。……私に寄り掛かるようにして。起こそうか迷ったけど、起こすのはなんだか忍びない気がしたのでそのままにしておいた。今思うと、起こしておいても良かったかもしれない。バスに乗ってる間、ずっと心臓がバクバクしてきつかった……こいつは、この前あったことを忘れてしまったんだろうか? よく私に寄り掛かれるなぁ。いや、私が気にし過ぎなだけ……? もしかすると、友達同士でキスするなんて普通なのか――!? わからない! わからないよ!
「優香? どうしたの? 眠いの?」
はっ。つい考えこんでしまった。いけないいけない。
「まさか。沙良じゃあるまいし。降りるよ」
プールは沢山の人で混雑していた。夏休みに入ってすぐだから、当然かも知れない。なんでこんな日に誘ってきたんだろう?
「うわー、すごい人。ねえ優香、やっぱり今日プールやめない?」
「はぁー!? あんたが誘ってきたんでしょ!? せっかく来たのに!」
「ごめん……また今度来ない……? ちょっとさ、来て欲しいところがあるんだけど……」
「え?」
なんだか沙良の様子がいつもと違う……。来て欲しいところ? 何だろう?
「どこ行くの?」
「ちょっと、近くに大きい公園があるんだよ。噴水がある……」
「公園? 何しに行くの?」
「来てくれない?」
「具合悪いの? そうならそうと言ってくれれば」
明らかに沙良の様子がおかしい。顔が赤いし、熱中症になったのかもしれない。さすがに病人の頼みを断るほど、冷たい女ではない。プールに行けなかったのは残念だったけど、仕方ない。
「沙良? 大丈夫?」
「ありがとう、私のわがままに付き合ってくれて」
「いいよ」
ベンチに座っている沙良に、自販機で買ってきたスポーツドリンクを手渡す。沙良はそれをごくごくと、一気にペットボトルの3分の1くらい飲んだ。
「ちょっとさ、変なこと言って良い?」
「え?」
何を言うつもりなんだろう。沙良の様子を伺うと、さっきよりも具合が悪そうだった。
「いいよ。何?」
「あのさぁ、優香は……優香は、今年の5月にあったこと……何が一番心に残ってる?」
「え?」
5月にあったこと……?5月といえば、高校に入学してすぐの頃だから……あっ。
「……沙良が言いたいことってさー、キスしたこと?」
「……そうだよ」
なんと。覚えていたのか。……当たり前か! でも、それがどうかしたのだろうか。
「私さ、あれからなんか変な気持ちだったんだよね。なんかさー……なんとなく優香のことを考えちゃうっていうか。おかしいかなって思ったりしたけど……変だよね」
なんとなんと。
「それ私もだよ!」
「ほんと? それでさ、いろいろ考えたんだけど……あの、優香。笑わないで聞いてほしんだけど」
「どうしたの?」
変な雰囲気が二人の間で流れていた。私の心臓がものすごい速さで脈打っていて……音が空気を伝って沙良に聞こえてるんじゃないかと思うほどだ。
「優香。私……優香のことが好きかもしれない……恋人として」
それは、冗談? とは聞けなかった。沙良がものすごく真剣な顔をしていたから……そして、私は……
「実は私も……そうかもしれないって思ってたんだ。沙良のことが好きなのかもしれないって……」
「本当? じゃあさ……その……ゆ、優香さん。付き合って下さい」
なんだこれは……私たちは友達だったはず……そんなふうに思う自分が、私も付き合いたいという自分に押し潰されていく。
「よろこんで。これからよろしく、沙良」
「ありがとう。優香……私達、恋人同士ってことでいいんだよね?」
「そうだよ。私の恋人の沙良さん」
「なっ……!」
「顔真っ赤だよ~」
「うるさい!」
こうして、私と沙良は恋人の関係となった。私の心のなかのモヤモヤは、沙良への愛しさへと変わった。
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