友達になった2人、恋人2人

 8月1日、出校日だ。まだ沙良は来ていない。沙良が来るのを自分の机で待っていると、彩――臼杵彩うすきあやが話しかけてきた。彩とは中3からの友達だ。


「ねぇ、優香……あたしってなんか人に嫌われるようなことしてるかな?」

「え? どういうこと?」

「実は最近、ある人に睨まれてる気がするんだよね……ある人っていうのは、山本さんのことなんだけど」

「明海さんが? 彩を? 睨んでるって?」


 なんじゃそりゃ。彩が勝手に睨まれてるって思ってるだけなんじゃ……? でも一応アドバイス、のようなものをしておいてやろう。


「彩ー、あんたなんかしたんでしょ。彩って馴れ馴れしいからなぁ。初対面でも遠慮なく突っ込んでくるっていうか……それが苦手な人もいるんだよ、多分」

「まじかー……しまったかなぁ」

「まぁ気のせいかもしれないじゃん。てか明海さんは人を睨んだりするようなことはしないと思うけどね。多分気のせいだよ」

「山本さんと仲良いの? 随分肩を持つじゃん、あたしのことは忘れちゃったの!?」

「何を言ってるんだ、お前は」


 そんな会話をしていると、沙良がやってきた。


「おはよー、優香、彩ちゃん」

「おはよ、沙良」

「おはようっ! ねえ聞いてよー、優香がさー、あたしのこと嫌いって!」

「そんなこと言ってないでしょ! まったく……」

「優香ひどいなー、私のことは好きっていってくれ……ゴホ、ゴホ」


 何を口走ってるんだ、沙良――!






「ふー、午前終わったー、沙良、一緒にお弁当食べよーっ」

「うん、いいよ」


 そういえば、昨日明海さんに言ったこと――仲良くなりたい人をご飯に誘うっていうのはどうなったんだろう。相手がうちのクラスの人だったら、今だと思うんだけど……えーと、明海さんは、いたいた。……うん!? 彩に話しかけてるぞ!?


「あ、ああああの、臼杵さん、一緒にお弁当食べない?」


 仲良くなりたい人っていうのは、もしかして彩のことだったのか!? 彩、明海さんに睨まれてるとか言ってたけど……やっぱり勘違いだったんだ。


「山本さん? まあいいけど、なんであたしと?」

「え、そ、それは……」


 やばい、答えに困ってる! そういえば、どうして仲良くなりたいのか知らないなぁ。はっ、まさか……

「一目惚れ……!?」

「優香、どうしたの?弁当食べるんじゃないの?」

「あっ、いやなんでもない」


 声に出てしまった。まぁ、ありえないか。明海さんはどうなった……? 様子を伺ってみる。


「う、臼杵さんと、ととととと友達になりたいから……っ!」

「えっ……? あたしと?」


 なんと、直球で言っていた! 明海さん、やるときはやるんだ。すごいなぁ……


「あたしと、友達になりたいの? 友達になろうって言ってきた人、初めてだよ。……うん、いいよ。あたしたち、今日から友達ね」

「いいんですか……? ありがとう、臼杵さん!」

「友達だったら彩って呼んでよ。彩ちゃんでもいいよ。明海ちゃん」

「あ、あ……彩……ちゃん」

「うむ、よろしい。くるしゅうないぞ」


 新たに友情が生まれた……! よかったね、明海さん……! そうだ、今度から私も明海ちゃんって呼ぼうかな。


「もー、優香! いつまでぼーっとしてるの!? 早く弁当食べようよ!」

「あっ、ごめん……じゃ、いただきます」

「いただきます」


「おっ、沙良の玉子焼き美味しそうだねー」

「甘めなんだよ~。優香のにも入ってんじゃん」

「私のはしょっぱめなんだよ。1個交換しない?」

「いいよー。はい」


 沙良が自分の玉子焼きを私のお弁当箱に入れようとする。


「えっ、沙良……なんで私のお弁当箱に入れようとしてんの? あーんしてくれないの!?」

「ひぃぃ、何考えてんの!? ここ学校だよ!? ばれたらどうすんの!」

「大丈夫だって……仲いい友達同士ならやってるよー」

「そう……かな? 大丈夫かな?」

「大丈夫だって!」

「わかったよ……まったく、優香はしょうがないなぁ」

「やったーっ!」

「そ、そんなに喜ばなくても……はい、じゃ、あーん……今回だけ特別なんだからね」

「ツンデレかよ、あーん」


 沙良が赤くなりながら私にあーんをしてくれる。その玉子焼きは口に入れた途端にふわりと溶け、甘い味が口の中に広がった。沙良があーんしてくれたおかげか、とても美味しく感じた……


「甘いね……まるで沙良の唇みたいに……」

「なななな、何言ってんの!」

「じゃあ、次は私のをあげる……口開けて?」

「私は、いいよ……恥ずかしい」


 沙良が目をそらしてうつむく。顔が真っ赤だ……! かわいい……


「そんなこと言わないで……私にあーんさせてよ」

「えぇ、でも……」

「お願い……」

「うーーっ……わかったよ。もう! はやくしてよ! あーん!」


 やった! 沙良は押しに弱いなぁ。かわいいなぁ。


「沙良……」


 私の玉子焼きを沙良の口に入れる。沙良が私の玉子焼きを食べてくれてる……


「どう?」

「しょっぱいよ! なにこれ! 優香味覚おかしいんじゃない!?」

「えぇ……そんなに?」

「そんなにだよ! まったく……」

「口、甘くしてあげようか?」

「えっ、どういう……――――っ! ここ学校だから! それはマジでだめだからね! 学校来れなくなっちゃうよ」

「冗談だよ。本気にしちゃって~」

「優香のは冗談に聞こえないんだよ!」

「ごめんごめん」


 沙良とわいわいしながらお弁当を食べた。やっぱり特別な人と食べるご飯は美味しいなぁ……明海ちゃんも彩と友達になれたみたいだし、今日は良い日だ……学校行くのめんどくさいと思ってたけど、ありがとう、出校日。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る