2人で花火大会
ヒュゥゥゥゥゥ、バーン!
私と沙良は花火大会に来ていた。県で一番の規模の花火大会ということもあり、周りには人があふれていた。
そんな中、はしゃいでる人が一人……沙良だ。
「あっ、赤だ! あれはリチウムだね! ……あれは黄色だから、ナトリウムだね! えっと、水色って……」
「もう、沙良! 風情、風情がないよ! なに炎色反応叫んでんの!」
「えっ、だって先生が、花火を見るときは炎色反応考えようって言ってたじゃん」
「言ってたけど! 冗談に決まってるでしょ」
私達の化学の先生が(おそらく)冗談で言ったことを、本当に実行してる……
「まぁまぁ優香、楽しいんだからいいじゃん」
「楽しい? ……あっ、緑! 銅かなっ! ……楽しいか、これ」
「うーん」
「……」
「おー、すごいこれ…………おー」
沙良は花火に夢中のようだ。花火をじっと見つめて、時折感嘆の声を上げている。沙良が楽しんでくれてるのは嬉しいけど、私の声は頭を通り抜けている……ちょっと寂しいけど、邪魔をするのも悪い。私も花火を見よう。
花火大会も佳境に入ってきた。一番最後に、二尺玉が同時に打ち上げられる。その時が近づいてきている。誰かのラジオから、もうすぐで二尺玉が打ち上げられるというアナウンスが聞こえてきた。
「優香、もうすぐ二尺玉の同時打ち上げだって! どのくらい大きいんだろうね」
「相当だよ、たぶん」
クライマックスへと向けてか、大きめの花火がたくさん上がるようになってきた。周りから歓声が上がったちょうどその時、沙良が私の手を握ってきた。どうしたのだろうと思って沙良を見ると、沙良も私を見ていた。
沙良は私より少し背が小さいから、並んで立つと沙良のほうが少し下になる。上目遣いで、手を握り返してくれと言わんばかりの視線。その視線に気づくと、私もすぐに沙良の手を握り返した。それも、普通に握るのではなくて、俗にいう恋人つなぎで。
「私達、カップルみたいだね」
沙良が赤くなりながら言った。すぐ赤くなるなぁ。もっと赤くしてやろう。
「みたい、じゃないでしょ」
「~~! 自分で言ってて恥ずかしくならないの!?」
「むしろ幸せになれるよ~っ」
「すーぐそういうこと言うんだから……」
予想通り、さっきより赤くなった。かわいい……そんな沙良をみてると……
右手を沙良の頬に添える。沙良がビクッと反応したので、左手で頭をなでてやる。顔を近づけようとしたが……
「ゆ、優香。ここじゃ、人が居るよ」
「じゃあ、あっちいこうよ」
「うん……」
沙良が私のいうことに、素直に従ってくれる。
「ここならいいよ……」
「わかった。沙良……」
沙良の頭を撫でながらキスしてみる。沙良を撫でてると落ち着く……心が満たされていく感覚がする。それと同時に、沙良のことが愛おしすぎて、胸が苦しくなる。その苦しさを癒やすように、貪るようにキスをする。
「…………っ、んんっ、んーーーっ! ……はぁっ、はぁっ……な、長かったよ……」
「ごめん……つい……沙良のことが好きすぎて、苦しくなったんだよ」
「苦しいの? ……しょうがないなぁ」
そう言うと、沙良が私を抱きしめて、私の頭を撫でてくれた。自分より背が高い私を撫でようと、腕を伸ばす沙良……その健気な様子を見ていると、またしても胸が苦しく……!
「うぅ、沙良ぁ……」
「そ、そんなに苦しいの!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫。心配ご無用だよ」
「そう? それなら良かった」
沙良から離れて、お互い見つめ合う。沙良の顔は真っ赤で、目は潤んでいた。
丁度、特別大きな音が聞こえた。空を見ると、巨大な花火がニつ咲いていた。
「見て見て、沙良。二尺玉の同時打ち上げだよ」
「わぁ、すごい……大きすぎて、視界に入りきらないよ」
「ほんとだね……」
花火大会は終わり、人混みが動き始めた。私たちは人の波に流されるように、帰路についた。もちろん、手を繋ぎながら……
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