2人が食べてしまったモノ

「お菓子持ってきたよー、チョコレート。お母さんの部屋にあった」


 夏休みももう終わりに近づいてきた頃。私は宿題から目を逸らしながら沙良の家に遊びに来ていた。


「ありがとー、沙良。勝手に持ってきていいの?」

「いいんだって。食べちゃお」


 勝手に食べることになんとなく罪悪感があったが、沙良が良いと言っているのだ……そう言い訳して私も食べることにした。


「うーん、優香、なんかこのチョコ、味変じゃない?」

「まぁ確かに……ちょっとその箱貸して」

「これ?」


 沙良からチョコレートが入っていた箱を借りて、どんなものなのか見てみる。


 『夫婦生活に一刺激!? 媚薬入りチョコレート6個入り』


 ……………………沙良のお母さん……ごめんなさい……

 って、あれ? 私も沙良もこれ食べちゃったんだけど……


「どうしたの優香? そんな青ざめた顔して。なんか変なの入ってたの? 」

「……うん? あー、いや……そうだねぇ……お酒が入ってたみたいだね……もう食べるのやめたほうがいいかも……」

「まじ!? しまったなぁ……これ戻してこよ」


 沙良が部屋から出て行った。さて、どうしようか。まぁ媚薬と言ってもそんなにすごいやつじゃないだろう……だから大丈夫だ。何も変わらないはず……そう楽観的に考えることにした。


「ただい、ま……あれ? 優香なんか最近変わった? なんか前より……」

「おかえり、多分気のせいじゃないかな、何も変わってないよ」

「そう? うーんなんか優香がいつもより可愛く見えるわーおかしいなー」

「ははは……」


 いつもなら「ありがとー沙良! 沙良も可愛いよーーー!!」なんて言えるかもしれないが、今は自分自身に余裕が無い……私が媚薬にやられてるのか? 結構自分の冷静さには自身あったのに……ショックだ。


「あの、沙良、私今日調子悪いから帰っていい? 来たばっかりだけど」

「えぇー、優香ぁー帰らないでぇ」


 沙良が私の服を掴んできた! それがきっかけで、衝動的に沙良を押し倒してしまった。おいおい、何やってるんだ自分……冷静な自分が頭の隅で呆れている。


「ご、ごめん沙良……いきなりこんなことして、私ちょっと今おかしいの」

「いいよ」


 沙良から離れようとしたが、私の頭の後ろに沙良の手が回された。

 それを感じ、沙良にキスをする。すると、沙良がそれに応えてくれた。


「優香ぁ……私も変かもしれない……」


 沙良がそう言うと、私の頭を掴んで唇に唇を押し付けてきた。その上……


「んんっ――!?」


 今日は沙良がやけに積極的だ。きっと……いや、絶対あのチョコのせいだ……! だけどもちろん嫌じゃない。むしろ嬉しい。当然だ、私は沙良のことが好き――大好きだから。


「優香ぁ……」


 蕩けそうな頭に、沙良の声が響いてくる。それを聞き、沙良に気持ちを伝える。


「大好きだよ、沙良……沙良は私の事好き……?」

「うん、大好き……んん」


 言葉少なに、私たちはキスを続けた。いままでとは違うキスを……




 キスをしていると、突然沙良が私の服に手をかけてきた。


「沙良っ!?」

「優香ぁ…・・・だめ?」


 そんな顔でお願いしないで……断れなくなる……!

 私は沙良にされるがままになるしかなかった。私と沙良の位置が入れ替わり、沙良が私の上に位置取る。沙良が私の下着に手をかけた時――


 ガチャン。

 玄関のドアが開く音が聞こえた。


「ただいまー、あれ、優香ちゃん来てるのー? 沙良ー?」


 沙良のお母さんが帰ってきた! 私は一瞬で冷静さを取り戻す。


「やばいよ、沙良!」

「うーん?」


 沙良はまだ憑かれたようになっている。とりあえず服を着てから、沙良の肩を揺する。


「沙良、お母さん帰ってきたって!」

「え? あ、ああ! ど、どうしよう……」

「大丈夫、もう私いつも通りだから!」

「う、うん? ああ、大丈夫か……」


 そこで私たちはさっきまでのことを思い出して、ふたりとも真っ赤になった。


「なななななにやってんだろ私! 優香、今日のことは内緒ね! 絶対誰にも言っちゃダメだから!」

「当たり前じゃん! 沙良こそ、うっかりお母さんに話したりしないでよね!」

「しないよ!」


 このことは、私達だけの秘密だ――永久に。

 しかし、積極的な沙良も可愛かったなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る