郷愁、憧憬、雨の音はノスタルジア

 雨音には、リズムがある。

 目を閉じて、水溜まりの波紋を脳裏に思い浮かべてから、この作品を読んで欲しい。
 染み入るような霧雨も、穿つようなスコールも、雨粒ひとつひとつが言の葉となって、私の、あなたの心を打つのである。

 エピソードのひとつひとつが、言葉と、想いと、出会いの積み重ねだ。
 手の平を重ね、そこに雨を溜めてみよう。
 いつか、溢れて、落ちてしまう。
 その雨を、我々は、或いは別の誰かが受け止め、溜めてくれるはずだ。

 この作品の世界は、『そういうもの』であると、私は言い切る。
 伝えるということ、共有すること、繋ぐこと。

 温かく、柔らかく、身体を冷まさず、心を濡らす、優しい雨。

 そんな雨が、あってもいい。

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