暗黒時代の中世を生き抜く、本当の強さを持つ男

中世ヨーロッパは暗黒時代とも言われていて、略奪や強盗、紛争の絶えない殺伐とした時代でした。
正直、こんな時代に生まれなくて良かったと心底思うんですが、だからこそ、この時代を駆け抜けた人間は本当に強い。力も、心も、胆力が比べ物にならないほど、強い。

ゲッツもそんな豪傑の一人と言えるでしょう。

世間のはみ出し者、荒くれ者、人に私闘を吹っかけて金品を巻き上げることしか能のない、盗賊騎士。まともな稼ぎと言えば傭兵稼業。
何と因果な生業か…前半部では破天荒なゲッツの喧嘩三昧を通して、当時の時代背景をこれでもかと読者に叩き込みます。

そして訪れる中盤の転機。
ゲッツの右腕が戦争により失われ、鋼鉄の義手を身に付けるようになってから、劇的に物語が動き始めます。

誤解を承知で言うならば、主題である義手の登場が遅いのではないか…と当初は思いました。
恐らく、題名を見て読み始めた人ならば、誰もが思うのではないでしょうか。いつ「鉄腕」になるんだよ、と。
前半部はもっと削るべきじゃないか、と。
ことウェブ媒体では、主題の出し惜しみは致命傷となります。引き延ばしはすぐに飽きられます。

が。
終盤ゲッツが参加した戦争にて、前半で親交を深めた男たちが次々と役目を終えて行きます。
そのとき、読者は思い知るのです。

前半部は無駄じゃなかったんだ、と。

あれがあるから、この最終決戦はこんなにも感動できるんだと。

歴史小説は、大きな改変を出来ません。ゲッツの生涯は、史実通りに綴らなければいけません。
仲間との出会い、敵との邂逅は、彼の右腕が健全だった「前半部」にて結ばれたもの。ならば、前半部を省くわけには行かない。
右腕を失うまでのドラマこそが、実は一番大切だったんだよという逆転の主題。

お見それしました。面白かったです。

とはいえ序盤のフックが弱かったのは否めないので、何か代わりの餌をまいてくれても良かったなと思いました。

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