タイトルにもある「幻」と言う言葉が深い意味を含んでいたなあ…と思った作品でした。
人が死んだというちょっと怪談風な謎から始まり、皆が現在と過去でどう関わっているのだろうというミステリーが話の展開にテンポを添えてくれます。
幽霊の存在の是非において対立する二人の少女と、二人の助けを借りて謎を追う主人公の少年。あまり馴染みのない交霊会なるものも登場し、切ない恋心も葛藤もあって、一つのジャンルとして括るには勿体ないドラマを読ませてくれました!
読みやすい文章で混乱もなく読める作品でもあります。
少年は最後に何を知り何を思うのか。
是非ご一読下さいm(__)m
これは「本格ミステリー」だと思います。
なぜなら「ミステリー」と言う言葉には、神秘、不思議、人智では計り知れないことと言う意味が含まれるからです。
「推理」または「推理小説」を表すコトは言うまでもないでしょう。
探せば類似の作品が存在するかもしれませんが、この作品はミステリーの言葉が持つ両方の側面が見事に表現されています。
「真実は一つ」です。
しかしなぜそうなったのか?それは当事者以外は知りえぬコト、作中でも表現されるように「心霊」と言う言葉を普通に見れば、「胡散臭さ」が香ってしまいます。
「ラノベだから良いか?」的な思考で受け止めてしまいがちですが、この作品はそうではありません。
作者さんの価値観、意志と言うか野心の様なものが見えて来ます。
まさに「ダイイングメッセージ」(←この言い方はおかしい?)!!と言うモノがこの作品に在り、それが紐解かれてゆきます。
あまり書くとこれから読む方に失礼なので控えますが、これから読む方へ、最後に「姫」と言う言葉も含め、綺麗に解決される様を読んで頂きたいと思います。
それぞれが一つの出来事に向き合いつつ、それぞれに感情を揺り動かし、時に衝突することもあれば、理解し合おうと努力したり――。
そして、その関わりの中で、主人公である「僕」を含めたそれぞれが、自分を見つめ直し、成長していく――。
この心霊ミステリィ作品には、幽霊の噂を軸にした、時に痛々しさを感じさせながらも、瑞々しく彩られた青春の一風景が、広がっていました。
幽霊を、ただのオカルトとしてではなく、論理的にアプローチしている点も、新鮮味があり、持ち前のオカルト魂を刺激され、かつ、幽霊に対する自分の考えも、これまでとちょっと違ったものに変えさせられてしまいましたね。
幽霊に対する見解の違いで二人の少女が対立する様は、テレビのオカルト番組で、肯定派と否定派が言い争う場面を思い浮かべてしまい、思わずくすりと来てしまうということも。
シリアスにストーリーが展開していく中で、アクセントとして、コメディタッチが含まれているのも、良い起伏になっていると感じました。
ミステリィとしても、解き明かされていく謎が、よく練られているだけでなく作風とマッチしていて、すんなりと入ってきました。
幽霊や霊媒と言ったオカルト好きな方であれば、いい刺激になるでしょうし、そうでない人であっても、恋愛要素を含んだ青春ミステリィとしてだけで読んでも、十分に楽しめる逸品です!
読み終えて、まず完成度の高い作品だな、と印象を受けました。
一本、筋の通った、しっかりとしたストーリーを練り上げていますね。
メインキャラクターの数が絞られていて、ダブルヒロインの性格や背景の対比の中心に上手く、シニカルな主人公が当てはめられているおかげでしょう。
カタルシスを覚えたのは、ストーリーの達成の過程でちゃんと主人公、そして脇を固めるヒロイン達も成長出来ているからだと思います。
己を見つめ、他者を理解し、一歩進むことが出来るのは、若さ、青春、学生時代の特権とも言えます。
楽しく読ませて頂きました、ありがとうございます。
幽霊を題材にしたミステリーですが、高校数学の幾何の参考書を読み進めているような錯覚に陥りました。
主な登場人物は3人の男女ですが、依拠する思考の前提が異なるだけで、私には3人とも論理的思考の権化みたいに感じられました。非人間的なキャラクターではないのですが、そのセリフを理解するのに精一杯で、キャラクターを吟味する余裕を失っていました。
ただ、作品に散りばめられた要素は全て、無駄無く論理で繋がっています。見事としか言い様がありません。そのロジック展開が見事で、幽霊が単なる記号になっています。少なくとも、怖くはない。良い意味で、不可思議という感じもしない。怪談よりミステリー小説。でも、私には数学の参考書がピッタリくる例え。
そういう知的好奇心を満たせる作品です。
最後にどうでも良い話ですが、一魅という字はどうなんでしょう?私、魅力より魑魅魍魎という単語を連想してしまって・・・。まぁ、この作品には相応しい名前ですけど。
本格推理に「幽霊」や「心霊現象」と言ったオカルト要素を盛り込む場合、どう言い繕っても必ず出て来るのが「非現実的で推理しようがない」という、頭の固い老害どもの難癖です。
世の中には超能力で論理的に解決するミステリーはごまんとあるのに、おのれの読書不足を棚に上げて揶揄するわけです。
されど、カクヨムにおいて、それらの『邪道』とされるオカルト要素をミステリーに盛り込んだ書き手たちは数多く、いずれも佳作名作をランクインさせています。
その旗手として、本作もまた名前を連ねるべき傑作です。
幽霊の存在を信じるか否か。
丁寧に、この段階から物語は始まります。
霊にとりつかれた主人公。
さらに、霊を信じない唯物論者のヒロインと、霊体験を実感しているオカルト信者の、ダブルヒロイン体制。
ジュブナイル・ライトノベルを意識した人物配置が、オカルトミステリーを敬遠しがちな人にも間口を広げる役割になっています。
また、主人公自身が人を遠ざける孤高のぼっち気質なのも、余計な人物を登場させず、シンプルな作劇構成に貢献しています。
肝心の物語も、実に巧妙に練られています。
昨年「姉」と慕っていた女子生徒が謎の死を遂げ、その背後には「幻の呪い姫」というオカルトな噂が跋扈していた…その呪い姫が、今度は主人公に憑依してしまったらしい…?
姉の死と呪い姫の因果関係を解き明かすことが至上命題です。
霊を単なるオカルトで済まさず、存在の仕組みから交霊・除霊のメカニズムまで独自設定で構築しており、その枠組みの中で論理的に解決している点が、舌を巻きました。
そう、論理的なんです。
オカルトだから何でもあり、ではないのです。
幸い、謎解き自体は、さほど難しくありません。伏線も布石もきちんとあり、気付く人は早い段階で真相を見抜けるでしょう。
でも、それは決して、あなたの洞察力が優れているからではありません。
作者が懇切丁寧に理論を構築し、不確かな幽霊を一個の存在として確立させた巧緻な下地があるからこそ、導き出せる結論なのです。
読者の理解度を計算に入れ、適切な情報整理による作者の誘導があればこそ。
読み終えたとき、まんまと正解へ歩かされていたことに愕然とするはず。
オカルトなのに、納得できる。腑に落ちる。
ミステリーの新境地です。