芸無(げーむ)

たま川しげる

第1話 ストⅡ大会

近所にある、ファミコンショップウルグ愛ラウンドは、

新品、中古のゲームを幅広く取り揃えており、

地域で知らない男子中学生はいないという位有名です。


ゲーム屋は他にもあるのに、

この店だけに人(男子小中高生と大きなお友達)が集まる理由は、

多分、店内にゲームセンターが併設されているからです。

広い床面積を最大限に活用していて、頭が良いなと思いました。


大儲けした店長は、客に日頃の感謝の気持ちを表そうと、

ゲームの大会を開くことに決めました。


「ストリートやくざⅡ」という格闘ゲームの大会です。

このゲームは、通称「ストⅡ」と呼ばれています。


優勝者には賞状と、発売されたばかりのウルトラファミコン用ソフト、

「ラストリベリオン四八パーフェクトクローザー」という大盤振る舞いです。


当然、店に入りきらない程の参加者が集まりました。

三十人以上いました。


参加者の狙いは商品だけではありません。


まず第一に、タダでゲームがしたい。

次に、ゲームの腕を自慢できることです。

「自慢したいけど、自分から言うのはなー」

と日頃から思っていた、引っ込み思案の天才ゲーマー達が、

ウルグ愛ラウンドに集結しました。


もちろん、僕も行きました。でも参加はしません。

上手い人がたくさん参加するんだろうから、

僕なんかすぐに負けて恥をかくだけだと思ったからです。


でも、友達のこうちゃんが出場の申し込みをしました。

こうちゃんは、たまに全面クリアできる位ストⅡが上手だから、

優勝するかもしれないと、僕は期待していました。


一回戦。


こうちゃんの相手は、チャラ男でした。

へらへら笑っていて気持ち悪い人でした。

こうちゃんが勝ちました。

チャラ男は、タダでゲームがしたいがために参加したカスだったようです。


二回戦。


こうちゃんの相手は、隣の中学のオタクでした。

学校のジャージ上下を着ていたのでそうだとわかりました。

神経質そうにメガネの位置を調整しているのがウザいです。


対戦が始まるとオタクはすぐに距離を詰めてきました。

そして弱キックを出してきました。

こうちゃんはそれをガード。


そこからおかしなことが起こりました。


オタクの操作する、軍人の格好をしたやくざが、

こうちゃんの操作する、相撲の格好をしたやくざに、

パックドロップをしたのです。


そして、こうちゃんの相撲やくざが立ち上がったところで、

また、軍人は弱キックを出しました。

相撲はそれを迎撃しようとして、

パンチを出そうとしたようですが、相手の弱キックの方が発生が速く、

出鼻をくじかれた格好になり攻撃を食らってしまいました。


軍人はさらに弱キックをしてきました。

相撲はそれをガードしました。

すると、その直後。

また、軍人のバックドロップが決まりました。


僕は何が起こったのかわかりませんでした。


すると、「アッ、ナゲハメ!」「オッ、ナゲハメ!」

ギャラリーから次々と声が上がりました。


「ナゲハメ」とは一体何のことなのか?

僕にはわかりませんでした。


大会を見守っていた店長も気になったようで、

近くにいた、四十歳位の大きなお友達に聞きました。


大きなお友達によると、「ナゲハメ」とは、

相手に攻撃をガードさせ、ガードの硬直時間中に接近して投げ技を食らわせる、

ハメ技、邪道技だそうです。

だから「投げハメ」かと、僕は納得しましたが、

こうちゃんはもう、投げハメの連発で負けた後でした。


ギャラリーからの文句が飛び交いました。

「投げハメだぞー!」「投げハメだー」


大会は一時中断。


店長が大きいお友達に意見を求めます。

大きなお友達によると、メーカー主催の全国大会等、

オフィシャルな大会では禁止されている技だそうです。


それを受け、店長がもう一回試合をやり直すことを提案しました。

しかし、「そんなルールは聞いていない。あるなら最初に言え」

とオタクは譲りませんでした。

店長は仕方なく、次から投げハメを禁止すると参加者に説明しました。


というわけで、こうちゃんは二回戦で敗退してしまいました。

こうちゃんは悔しくて泣き出してしまいましたが、

三十秒位で泣き止みました。

僕とこうちゃんは大会を最後まで見ていくことにしました。


決勝。


オタク対大きなお友達。


オタクはさっきと同じ軍人やくざ。

大きなお友達はプロレスラーの格好をしたやくざ。


試合が始まると、軍人は直ちに後ろに下がりました。

そして、ブーメランのような飛び道具を投げました。

プロレスラーはそれをジャンプでかわしました。


飛び道具は飛び道具をぶつけることで相殺可能ですが、

プロレスラーには飛び道具がないのでジャンプするしかありません。


軍人は緩急を付けて、ブーメランを投げ続けました。


シケた戦いにイラついたギャラリーの罵声。

「チキン野郎!」「金玉ついてんのかキモオタァ!」


プロレスラーは残り十秒までかわし続けましたが、

一度だけ、かわしきれず、ブーメランをガードしました。


プロレスラーの体力ゲージが、ほんの一ミリ位減りました。

必殺技は、ガードしてもちょっとだけ体力が削られるからです。

それはこのゲームの仕様です。

だからプロレスラーは、今までジャンプでかわし続けていたのです。


オタクはそのままブーメランを投げ続け、タイムアップ。


プロレスラーの体力がミリ減っていたので、

オタクの判定勝ちとなりました。


大きなお友達はあまり悔しそうではありませんでした。

まるで、こうなることがわかっていたように。


みみっちい決勝戦でした。

会場はギャラリーのため息に包まれました。

店長も困惑している様子でした。


ジャンプしながら近づいて、ブーメランを投げる隙を突いて、

飛び蹴りでも食らわせればプロレスラーの勝ちもあったのではないかと、

僕とこうちゃんは、近くにいた高校生くらいのオタクに聞きました。


しかし、それは悪手だと言われました。

もし、ジャンプ攻撃を仕掛けようものなら、

軍人の必殺対空技「ムーンサルトキック」による、

手痛い迎撃を受けるだけだと。


優勝者はオタク。


オタクは無表情で賞状と賞品を受け取りました。


そしてすぐ店長に、

「すいません。これ、売りたいんですけど・・・・・・」

と言って、優勝賞品としてもらったばかりの、

「ラストリベリオン四八パーフェクトクローザー」をつき返しました。


静まり返るギャラリー。


「・・・・・・四千円だけど、良いかな?」

店長が蚊の鳴くような声で答えました。

無言で頷くオタク。


僕は店長がかわいそうになりました。


それ以来、ウルグ愛ラウンドでゲーム大会は開かれていません。

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