第7話 ダンスダンスハルマゲドン

月曜日の朝は、土日の過ごし方が話題になる。


どうせみんな大したことはしていないが、とりあえず、そういう話になる。


「えーと。土曜日の夜から日曜日の昼まで麻雀やって、

それから今日の朝まで寝てました」


それは大変でしたね。


「飯と風呂と寝てる時以外はモンハンやってた」


素材集めがさぞ、捗ったでしょうね。


江崎くんはどうせパチンコだろうから聞かない。


部長は家でゴロゴロしていたに違いないが、

話しかけると、二十年以上前にやっていた登山の話を延々と聞かされるので、

用がある時しか近づかない。


そして、新入社員の植竹くん。


「ウイイレでチーム作ってました」


おお、ウイイレ。

ウイニングイレブンね!先週発売したやつ?


「いえ。2008です」


え?


「ブックオンで五十円で買ったやつ」


あぁ・・・・・・。


「そんで、コンピュータに負けてやめました」


・・・・・・はい。


「みんなゲームばっかだねぇ?この会社はオタクの集まりかー?」


そういう阿部くんは、土日に何してたの?


「スロット!」


それもゲームと言って差し支えないね。


「あぁ!ゲームといえばオレ、ダンスダンスハルマゲドン、マジ得意だよ」


ダンスダンスハルマゲドンって、ゲーセンの?


「そう」


機械の上で跳ね回るやつ?


「うん」


あれ、恥ずかしくない?


「まぁ、ヘタくそなら恥ずかしいだろうねぇ?

でも、オレは超絶にウマいから、ぜーんぜん恥ずかしくないぜぃ!」


ふーん。意外だなー。


「おっ?おい?もしかして疑ってる?信じてねーの?」


疑ってるって、何を?


「オレが!ダンハルの!プロだったって!こ!と!」


そんなもん、疑うも信じるもないよ。どうでもいいもん。


「・・・・・・わかった。証拠を見せてやろう」


証拠?ここでダンス始めんのはやめてよ?


「バカ言うな。動画があるんだよ!!」


動画?


「ワクワク動画にアップしてあるんだよ!」


動画投稿サイト?


「そう」


言いながら阿部くんは、会社のパソコンで、ワクワク動画にログインし、

素早く自分の動画を検索した。


「これだ!これ!」


近くに居た社員が、ワラワラと阿部くんの席の周りに集まった。


動画再生開始。


ゲームセンターの中。


ピカピカ光る、ダンスダンスハルマゲドンの筐体が映っている。


正面に画面。

床に上、下、右、左。

十字キーのように配置されたタイルが光っていて、

画面に表示される矢印に合わせてタイルを踏む。


タイルをリズミカルに踏んでいく姿は、ダンスに見えなくもない。

それが、ダンスダンスハルマゲドンだ。


イントロが始まった。

ということは、既にお金を入れて、曲を選択済みだったということだ。

つまり、金を入れて曲を選択した後、わざわざ筐体から離れたということになる。


一体何の為に?


イントロの音が大きくなり、まもなくゲームが始まるというところで、

画面隅からチェックのネルシャツを着て、チノパンを履いた男の後ろ姿が映った。


男は筐体に向かって大股で勇ましく歩きながら、

プロレスラーが入場シーンでマントを脱ぐ時のように、

ネルシャツを脱ぎ捨てた。


なるほど、曲を選択してから一度筐体を離れたのは、この登場シーンの為。

つまり、カッコつけるための演出だったのか。


ネルシャツの下は、黒のタンクトップだった。

男はとても痩せていた。

しかし、それがカッコ良さには繋がっていなかった。

ガリガリに痩せた、不健康なオタク痩せだ。


ゲーセンの床に落ちたまんまのネルシャツが、

清掃の後仕舞い忘れたぞうきんのようで、何か無惨に思えた。


ゲームスタート。確かに上手い。

ただ、不思議なことに、足しか使わないゲームなのに、腕も動かしていた。


その動きは、ビジュアル系バンドが、プロモーションビデオでやっていそうな、

ナルシストさが鼻につく、不愉快な振り付けだった。

いや、踊っている人が格好良ければ、不愉快に見えなかったかもしれない。

動作ではなく、やる人間の問題か。


曲終了。結果はほぼパーフェクトだった。


オタクが振り向いて、ドヤ顔で画面にブイサインをした。

クールを装っているのか、笑顔は控えめであった。


そして、その顔は・・・・・・阿部くんだった!


その瞬間、阿部くんの席に集まっていた同僚全員の、笑い袋の緒が切れた。


すると、あまりの笑い声のうるささに、部長がやってきた。


部長は動画を始めから再生した。

さっき見た人も含め、全員がもう一度見た。


そして、阿部くんのドヤ顔のシーンで、再び全員が吹いた。


部長は、動画を見てひとしきり笑った後、突然怒り出した。


「阿部!バカ野郎!こんなもんネットに上げて、恥さらしも甚だしい!」


しかし、阿部くんは無反応。

彼は最初に動画を再生し終わった辺りから、既に放心状態になっていた。

どうやら、笑われることを想定していなかったようだ。

誉められるとでも思っていたのだろうか。


その日、若手社員の間に広まった、阿部くんのあだ名は「サイバーテロ」


阿部くんの灰色に染めて逆立てた頭髪と、は虫類系の顔。

そして、ダンスダンスハルマゲドンでのエキセントリックな動きが相まって、

アメリカンヒーローコミックに出てくる、頭のおかしい悪役っぽく見えたので、

何となくそうなった。

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