第15話 将棋の塩梅

おじいちゃんの家には、ファミコンがあります。


買ってから三十年以上経つそうですが、故障もなく現役です。

白い部分が変色し、煮染めたような琥珀色になっていますが、まだ現役です。


ソフトは二つだけです。

一つはスーパーマリオブラザーズです。

僕がおじいちゃんの家に行った時、暇つぶしにやります。

生まれる遥か前のゲームですが、今やっても充分面白いです。

最近のゲームの一万分の一か、それ以下の容量なのに、同じ位面白いです。


もう一つのソフトは、将棋です。

おじいちゃんが普段やるのはこっちです。

ファミコンなので、コンピューターが弱いせいか、

楽勝で勝ててしまって、つまらないと、おじいちゃんはいつも言います。

でも、それなのに、毎日のようにやっているそうです。


そこで僕は、もっと歯ごたえのある将棋ゲームを、

おじいちゃんにプレゼントしたいと、父に提案しました。


最新のゲーム機を父が用意し、

僕が、将棋のゲームソフトを買って、

おじいちゃんにあげようということです。


しかし、父は最新のゲーム機ではなく、

スーパーファミコンにしようと言いました。

スーパーファミコンは、発売してからもう二十年以上経っています。

ジャンク品ならリサイクルショップで数百円で売られています。


しょうもないところでケチだなぁと、僕は少しだけ父に失望しました。


その後、父と僕は、リサイクルショップに向かいました。

本体は五百円。ソフトは百円。

ACアダプターと、RFスイッチは、

ファミコンのが使えるので、買わないとのことです。


プラスチックの買い物カゴに、スーパーファミコン本体と、

ソフトが入ったあたりで、父が言いました。


「最近の将棋ゲームのコンピューターは、強すぎる。

じいさんは、実はあまり将棋が強くない。

コンピューターなんかに負けたら、勝つまでやるとムキになって、

寝不足になったりして、それが、体を壊すきっかけになるかもしれない。

そこまでは考え過ぎだとしても、

じいさんヘソ曲げて、ゲームが嫌いになっちゃうから、これ位でいいんだ。

多分、じいさんが最後まで、気持ちよく勝てる位の強さだと思う」


僕は父に失望した自分を恥じました。

そこまで考えていたとは。


僕の目的は、おじいちゃんに、喜んで、楽しんでもらうことでした。

強い将棋相手を連れてくることではなかったのです。

僕はそれを失念していました。


駐車料金が無料になる手続きをしながら、父は静かに言いました。


「世の中で最も大事なのは、さじ加減」


だと。

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