正しいケジメの取らせかた

 竹下千歳は戸惑っていた。自分の知る高坂茜は面白い作品と自分が描きたい作品が一致している稀有な人物で、だからこそ、好きなように描きちらして楽しくやっている人間だった。

 けれど、目の前にいる紅坂朱音は創作者としての笑みだけではなく、どこか、背筋が寒くなるような気配を感じさせる。

「あんた、酒……」

「ああ? いやいや、案外いけるもんだよなあ? 元ファンからもらったもんなんだが、意外といけるもんだ」

「元?」

 千歳は眉をひそめる。

 朱音の言い方だと、それはまるでという言葉がいらない、絶縁関係にあるような……

「そこに置いてあるだろ、段ボール。その元ファンから、もらったんだよな」

「……ああ、そういうこと」

 そこに入っているのは、全て“紅坂朱音”名義のものだったからだ。

「知ってるだろ? 『五反田の枢機卿』の脚本」

「ええ、予算不足から脚本が逃亡。そこで代理を立てればいいものも、敢えてそうしなかった。そこで、原作の『五反田の枢機卿』の文章をそっくりそのまま“引用”することで、脚本を紅坂朱音ということにした」

「あははははははははは! そういうことだったのか! だっせええええな! 誰だよ、その企画立てたやつ!」

 ゲラゲラと笑いこげる朱音を、千歳は信じられないといった具合で見つめる。目の前にいる人間が、高坂茜ではなく見た目がただ似ているだけの人間だと言われればすんなり信じてしまうような変化。

「……それで?」

「え?」

 いきなり真顔になった朱音に千歳は戸惑いの表情を浮かべた。

「だから、それを決めたやつだよ」

「朱音、あんた一体何するつも――」

「簡単だろ? 落とし前つけさせるだけだ。あと、そうだな。クソアニメとして名を残してしまったんだ、止めとばかりにどデカイ花火を上げたってなんら構わねーだろ?」

 日本酒をさらに呷る朱音は、獲物に狙いを定めた猛獣のように、獰猛な笑みを浮かべていた。


「株式会社マネーグローブ自己破産申請提出wwww」

以下、インターネットでの意見・感想

・は? マネーグローブ破産とか冗談だろ?

・近年、ヒットらしいヒットも出てないし、別段あってもおかしくないだろ

・マネーグローブの直近の作品ってなんだ?

・なんとかの枢軸卿とかいうクソアニメ

・DVD売上200枚切ったとかいう驚異のクソ作品、枢軸卿は文字通り枢軸国と同じ運命を辿ってしまったな

・あっ、思い出した。原作者が脚本やったのに原作ファンからも見捨てられたクソアニメ。

・あったなあ、そういえば。そのくせ原作だけは無駄に力入ってるらしいな

・名前なんだっけ? その原作者

・赤坂茜とかそんな感じ

・マジか、マネーグローブにとっちゃ死神だな

・どうせあれだろ? 漫画とアニメで全然畑違いなのに口出しまくって完全に失敗するパターン

・ダメダメな作家だなwwwwwww

・俺、ちょっと業界詳しいけど、マネーグローブが訴えられたらしいぞ。で、それ自体は示談ってことになったが、そのせいで経営が傾いたって

・嘘つけや

・これは流石に嘘だってわかる

・いや、赤坂先生なら普通に訴えてもおかしくないw

・自分でwww脚本書いてwwww訴えるとかwwwww狂言かなwww

・どっちみち、資本関係にある企業を訴えるわけないだろ流石に

・でも仮に本当だとしたら、くそ面白い話だな、枢軸卿よりこっちをアニメにすればよかった

・それな

・お前ら間違えすぎ。紅坂朱音に五反田の枢機卿だぞ

・それそれwwwwwwwwww

・信者さんお疲れ様ですwwwwwwwwww

・俺、即売会で紅坂朱音のサークルに今までの本全部突っ返してるやつ見たことあるぞwww

・マジかよwwwwwwwwwwwww

・信者にも見捨てられる作者とか、くっそ哀れだな

・まあ、ただでさえクソアニメになった上、こんな尾ひれたくさんつけてたら、赤坂茜もこの業界でやってけねえだろ?

・だwwwかwwwらwww紅坂朱音だってwww間違えてやるなよwwwww

・すまん、今のはわざとだ

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