売れない作家の書く小説が、正史の裏に隠された真実を暴き出す――のか?

 それは現実なのか、それとも単なる妄想に過ぎないのか――歴史の陰に隠れた存在であったはずの「与え姫」との出会いは、アルフレッドの運命をどう動かすのか――本作品は、重厚な設定に裏打ちされた、本格ハイ・ファンタジーです。
 主人公アルフレッドは、売れない小説家。彼の小説が売れない理由、それはお手軽な娯楽を求める大衆に迎合する内容ではないから。
 伝説的存在である救国の英雄を題材にしながら、むしろ彼を支えたと言われる人物に焦点を当てた小説が、本作品のタイトルともなっている「与え姫奇譚」。
 アルフレッドが、独自の解釈と脚色を交えて創作した「与え姫」というキャラクターそっくりな美女と出会うところから、物語は始まるのです。
 この作品の魅力のひとつは、やはり綿密な設定。しかし、その設定は自己主張しすぎず、しかしストーリーの重要な場面ではしっかりとスパイスをきかせてくる、絶妙な塩梅です。
 主人公が歴史作家ということもあり、歴史に関する設定はかなり細かくされているようです。しかし、読み手が設定の押し付けを感じることはなく、その歴史を完全に理解していなかったとしても、没入感が損なわれることはありません。そのあたりは、ストーリーテリングの上手さがあってこそでしょう。
 登場するキャラクターは、みな個性豊かで魅力的です。文字数に対しての登場キャラは少な目かと思いますが、そのぶん一人ひとりの書き分け、描写はしっかりとしています。
 戦闘描写の迫力もなかなかのもの。魔術を交えてのバトルは、ともすれば冗長になりがちですが、この作品の場合非常にテンポがよくスピード感もあります。
 謎の美女・エルフィオーネの正体とは、また作家としてのアルフレッドはこの先どうなるのか。続編への期待が高まります。

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