春節で長らくカクヨム界隈から離れてたせいで文章の書き方を忘れました。そんな中リハビリがてら書きまするは、★やPVの少ない作品に絞り、僕が気に入った作品を紹介する「隠れ名作を見つけた」のコーナー第三弾。今回紹介するのはこちらです。
鶴見トイ著 「汎銀河企業体 メロンスター.Inc」
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154990397 ぶっちゃけ、この作品は「隠れ名作を見つけた2」を書いた時点で知ってました。というのも僕は第二弾で紹介した作品「感染性バスジャック症候群」を女子大生instagramウォッチャーGさん(バンパイアハンターDみたいでカッコイイですね)の紹介で知ったのですが、その際に同時紹介されていたからです。すなわち今回も「見つけた」ではなく「教えてもらった」が正しい表現であり、僕のやっていることはパクツイみたいなものなのですが、そこは大目に見てください。
ただ、その時は読まなかった。そしてその後、アナザー女子大生instagramウォッチャーNさんが紹介していることに気づいたりして心に強く引っかかり、そろそろ読んでみるかと重い腰を上げたのが少し前。それがかなり面白く、★49は少ないと言えるかどうか微妙なラインなのですが僕としては足りないと感じたので近況ノートで紹介することにしました。
この作品の魅力はなんといっても、随所に溢れる作者様のユーモアセンスです。
本作は要約すると「宇宙的ブラック企業メロンスター.Incで働く社畜セン・ペル氏の受難」です。そしてこの「宇宙的」が尋常じゃないぐらい宇宙的。発想の規模が違います。あらすじに記されている「メロンスター.Inc」の紹介分にその片鱗が表れているので、抜粋してみましょう。
『メロンスター社は、銀河全体に営業拠点をもつ大企業である。従業員数は三百億人を超え、時間旅行ツアーからアサガオの栽培、哲学者の派遣業から夏休みの宿題代行まで多岐に渡る事業を行っている。会社案内の事業内容ページがあまりに厚いため、撲殺事件の凶器として使われることが頻発したので、最新の会社案内では事業内容を「かなりたくさん」の一行ですますようになった。これによって年間百三十万本の木が救われることとなったが、大得意先をなくした製本業界は大不況に陥ったため、自殺者が大量発生した。これらの自殺者はどういうわけかきまって木に首をくくったので、首吊りを防ぐために年間一千三百万本の木が伐採されることとなった。』
ご覧の通り、基本的にツッコミどころしかありません。しかし作中の登場人物にとってこれは当たり前のことなのでほぼ誰もツッコミを入れません。こういう無茶苦茶で傍若無人な設定が次々と現れては問答無用で押し通され、ユーモアに富んだ宇宙スケールのギャグとして読者を笑わせてくれます。
このやたらスケールのでかい表現のおかげで「社畜物語」というこじんまりしたメインテーマにも関わらず、作品が小さくまとまっている感じは受けません。きちんとSFしています。それでいて話が拡散しきって本題から離れていく気配もない。ロボットの反乱とかハイジャックとか規模の大きな話もあるのですが、すべてきっちり「一社畜の受難」に収束します。そのバランス取りもまた見事。作中に登場する「ちょっと人権が無くなってしまったので、取り戻すまで出社できません」という台詞が作品の雰囲気をよく表現してるでしょう。(どういう脈絡でこういう台詞が出るのか気になる方は読んでください)
通して、安定感と中毒性の高い良作SFコメディです。「笑いの解説」はやった瞬間にどんな高度な笑いも白けさせる禁じ手なのであまり作品解説は出来ないのですが、とりあえず僕にとっては近況ノートで紹介したいと思うぐらいに面白かった。その感性を信じてご一読いただければ幸いです。
なおもうこれで3回目の忠告になりますが、個人個人で合う合わないがあるので、読んだけど面白くなかったぞ的な苦情は受け付けません。ご了承下さいませ。
<余談>
前回の隠れ名作を見つけた2(
https://kakuyomu.jp/users/Mark_UN/news/1177354054882005939)で紹介した「感染性バスジャック症候群」がコンテストに応募していました。もう選考期間も残り10日を切って今更ではあるのですが、プッシュしておきます。
カスイ漁池著 「感染性バスジャック症候群」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881977185 これは本当に面白いので是非読んでみて下さい。コンテスト期間前にだいぶ★を稼いでしまっていて、今からだと厳しいかもしれないけれど、読者選考で落ちるのはちょっと勿体ない。
2/9追記
上記の「感染性バスジャック症候群」は諸事情により作者様の意思で現在非公開となっております。僕としてはただただ「勿体ない」と思うのですが、まずはその判断を受け止めます。あーでも勿体ない。本当に勿体ない
2/14追記
再公開されました。コンテストは取り下げたようですが、宣伝がてら残しておきます。
-----(「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」のレビュ返)-----
河東遊民 様
可能世界の自分を考えるのは大事だと思いますが、想像力不足の人がそれをやると独善的に突っ走ってあちこち引っかきまわしてエラいことになるんですよね……。僕はむしろ無理に主観で分かろうとするのではなく、まずは一歩引いて自分含めた全体を外から俯瞰し、マクロな視点を持つことが必要なのかなと考えています。主観で物事を考えると、どっち側に転ぶにしても「自分が正しい」という考えが先行しがちなので。
ちなみに掲示板やアプリに特に具体的なイメージはありません。というか、唸るほどあるみたいだから別にどれでもいい。アプリは流行り廃りが激しくて、ちょっと時間が経つとすぐ古臭いイメージつきそうで名前出しにくいですね。既に盤石な地位を築いているLINEやTwitterやFacebookですらためらいます。
稲岸ゆうき 様
マイノリティの苦悩を書いた本作が「マイノリティにしか良さがわからない作品」になってしまったらそれは試みとして失敗です。特殊な人にだけ通じる特殊な作品として認識されたらむしろ溝を深める結果にしかならない。そんな中、正統派青春小説と評して頂けるのは大変励みになります。ありがとうございました。
-----(「僕とぼくと星空の秘密基地」のレビュ返)-----
鷹山雲路 様
驚きました。というのも鷹山様のおっしゃる通り、泣いているのは「僕」だからです。文章からそれを読み取れる要素は全くないのですが、僕は「ぼく」ではなく「僕」が泣いていると考えてあのシーンを書きました(ややこしい……)。作品と深くシンクロして頂けたようで、とても嬉しく思います。