「面白いものが無かったら一作品も選ばなくていいですか?」「本当は困るけど良いです」と仰って頂いたことで運営を信頼し、引き受けた選考でしたが、無事に面白い作品が集まり選ぶことが出来ました。本当にありがとうございます。選ばれた作品を読めば、選考に納得がいくのではないでしょうか。ここで選んだ四作品は面白いだけでなく『唯一無二の個性があること』『読者を意識しており文章が読みやすいこと』『百合小説として広義の愛を描いていること』の三点を満たしていると思います。逆に言うと、上記の三点を満たせば百合小説のコンクールは通るのではないかと思います。しっかりと選考しましたので、よろしければ是非皆さんも読んでみてください。若輩者ながらこういった機会に恵まれたことを心より感謝致します。

ピックアップ

ジャンル小説としても小説としても面白い、作品として完成されている一作。

  • ★★★ Excellent!!!

小説が商品になるかどうかはその独自性によるところが大きい気がするのですが、この作品は申し分ないです。完成度が高く、楽しく読むことができました。本作の独自設定「走馬灯について感動するかによって天国行きかどうか決まる」「その為に天使が走馬灯を作る必要がある」という理屈づけがばっちり決まっていて、映画を作る天使たちの世界に引っかかりなく入ることが出来ました。会話も軽妙でとても面白いです。会話のセンスは一朝一夕で身につくものではないので、これは宝物だと思います。最後も洒落がきいていますね。二人のキャラクターや会話からちゃんと感情の筋道を立てているので、大変納得のいく話運びだと思います。あと、文章が人に見られることをしっかり意識した読みやすさなので、そこも巧みさを感じました。こうした読者を意識した文体が、こうした選考の中で飛び抜けて輝いていました。

(カクヨム公式自主企画「百合小説」/文=斜線堂有紀)

センスの塊。タイトルから結びの一文までが計算されている。

  • ★★★ Excellent!!!

愛の輪郭を辿って浮かびあがらせるような作品で、この文字数なのにしっかりと二人のキャラクターと愛情、関係性が伝わってきました。書きたいこととその表現がメタ的に噛み合い、更にそこへ造語というオリジナリティーを加えることで、ほかにない作品になっていると思います。この世で最も普遍的な概念は愛か死になると思うのですが、共感性を担保しつつ陳腐にならないことは高度な擬似が要求されます。この短編はその部分をしっかりクリア出来ています。この二人って与えるものと受け取るものなので、一見関係が不均衡に見えるんだけど、ちゃんと受け取って大事にしていることが示されるだけで読者の側もカタルシスが得られるんですよね。愛だよ。個人的には、耳馴染みのいい造語が作れることもセンスがあるなと。


(カクヨム公式自主企画「百合小説」/文=斜線堂有紀)

これ手を入れたら書籍化出来ると思うので、どこかの出版社お願いします。

  • ★★★ Excellent!!!

デスゲーム配信アプリPopping Redの設定自体は面白く、極限の状態に置かれている園子と彼女のために祈るあこのオフビートな語りが独特な読み味の感動をもたらします。最後の一文がなんだか無性に泣けるんですよね。ああ、そうか。あこは園子が好きなんだな、と伝わってくるというか。だからこそもっとPopping Redの設定周りやゲーム自体を詰めたらもっと面白くなると思うので、できれば40000字くらいの短編に膨らませたものを読みたい。恐らく作者の方の力量なら百合版平山夢明のようなものが出来上がるんじゃないでしょうか。だとしたら多分金脈になるでしょう。この設定で一冊分連作短編にしてどこかに応募してください。


(カクヨム公式自主企画「百合小説」/文=斜線堂有紀)

応募作の中で一番個性的な一作。王道であるけれど非凡。

  • ★★★ Excellent!!!

恋愛信号管理局というアイデアと名称が好きです。モテを希求するサークルや部活に『恋愛感情の通信仕様をつぶさに読み解き、それらの信号を高精度かつ高効率に自らへ誘導する技術体系を確立すること』という妙な理屈づけをするおかしみが遺憾無く発揮されています。文章は若干読みづらさが先立つのですが文体に個性があり、二人のやり取りや地の文を読んでいるだけで楽しいです。恋愛信号を解析する話だけで連作短編に出来そうなポテンシャルがあります。「私ともジタバタしてほしい。蒲生さんとなら、きっと素敵なジタバタになると思うの」など、決め台詞にセンスがあるからこそ完成度の高い物語になっているんじゃないかと。モテを目指す部活をやっていた二人がいつの間にかくっつくのはみんなが期待する展開であり、ちゃんと嬉しくさせてもらいました。


(カクヨム公式自主企画「百合小説」/文=斜線堂有紀)